ドラゴンクエスト3
ドラゴンクエスト外伝〜そして、もう一つの伝説へ……〜
第一部・伝説の始まり
著作者:異界探訪
Kira’sQuest徹底攻略広場 ドラゴンクエスト3

  第一章・魔の再来

 (一)
 
 「教授ぅ、もうこれ以上は無理ですよ。やはり戻りましょう」
 「何を言っておる。伝承によれば、もうすぐそこにあるはずなのだ」
 ・凍えるような吹雪の中、二人はとある場所を目指して進んでいた。雪の中に膝まで埋もれ、吹きすさぶ風は肌を突き刺して来る。分厚い手袋をはめているのに手はかじかみ、そして吐く息は白く凍り付く。助手の青年が音を上げるのも無理からぬ事であった。そうまでして探し求めている物とは一体何なのか。それは程なく、二人の前に姿を現した。
 「こ、これが……」
 「やはり伝承通りだ。見たまえ、あれこそがこの書物に記されているラーミアの神殿なのだよ」
 ・丘から下を見やれば轟々と舞い踊る雪に視界を遮られ、なおその姿を堂々と見せつけるは、かつて不死鳥が飛び立ったと伝えられる神殿であった。しかし千年の時を経て、今にも崩れ落ちそうな気配を見せている。
 「あそこに、財宝が?」
 「うむ。書物によれば、かつてあの神殿から不死鳥ラーミアが蘇り、勇者と共に大空へ舞い上がった。そして世界に平和が訪れると、ラーミアは再び舞い戻り巫女と共に姿を消した。更に伝承には続きがあってな、神殿の奥には氷の洞窟があり、そこに勇者が残した宝が納められていると言うのだ。中には神々が勇者に授けた武具などもあったらしい」
 「そんな物が手に入れば、僕達は……」
 ・青年はその頭に財宝を、そして巨万の富を得た自分の姿を思い描いた。しかし教授はそれを激しく叱責した。
 「ばかもん、私は財宝が欲しい訳ではない。よいか、これは歴史的に見て非常に価値のある探求なのだ。かつて世界を救ったとされる伝説の勇者と、そして天界に住まうと言われる神々の存在。それらを研究することは、ひいてはこの世の理を知ることにも繋がる偉大な所業なのだ。さあ解ったら先に進むぞ、ここを下ればすぐそこだ」
 ・二人は丘を下りながら回り込むと、再び神殿を目指して歩を進めた。すぐ近くにシルエットを浮かび上がらせている神殿は、しかしなかなか近付いては来なかった。次々と降り来る方向を変える白い結晶が、二人の遠近感を狂わせているのだろうか。いやそれとも、何か目に見えぬ力が不当なる侵入者を拒んでいるのだろうか。
 ・それからどれ程時間が経っただろうか。十分、いや一時間、それとも……。既に時間の感覚は無かった。唯々足を前に運ぶのみ。そして二人は、遂に神殿の入口に辿り着いた。
 「おお、何もかも書物に記されている通りだ。この不死鳥を象ったレリーフ、上に向かって伸びる一本の階段。ここに、ここに真実を知る手掛かりが……」
 ・その時二人の足元が微かに揺れ、どこか遠くで雪が滑べる音が聞こえた。
 「教授、雪崩でしょうか」
 「なに、心配することは無い。周囲には高い山など見当たらんよ。よしんばあったとしても、ここは神の力に守られた聖域なのだよ。それよりついて来たまえ、上に行ってみよう」
 ・教授は構わず階段に足をかけた。だが青年は、何か嫌な胸騒ぎがしてならなかった。神殿に入ったその時から、何者かに見られているような気配が付きまとっていた。
 「教授、やはり戻りましょう。何か変ですよ、ここ」
 「今さら何を言っておる。いいから早く上がって来て、ちょっと手伝ってくれたまえ」
 ・上から顔を覗かせ怒鳴る教授に、青年は渋々階段を上がりかけた。と、その時再び大地が揺れた。先程よりも大きな揺れに、教授は思わず前につんのめった。
 「教授!」
 ・揺れが収まった時、教授は青年のすぐ目の前にいた。手足はだらしなく伸び、首は有り得ない方向にねじ曲がっていた。
 「教授……」
 ・最早物言わぬ人形と化してしまった教授を見下ろし、青年は混乱覚めやらぬ頭でこれから為すべきことを考えようとした。そして何気なく上を見上げた時、階段の上からこぶし大の石が数個転がり落ちて来た。と同時に奇妙な鈍い光が生まれ、神殿内に恐ろしい雄叫びが響き渡った。青年は慌てて神殿を出ると、一目散に駆け出した。どこをどう走っているのかは判らなかったが、とにかく一秒足りともその場にいたくなかった。
 ・ようやくすこし離れた丘に登り、一息ついて後ろを振り返って見た。真っ白い視界のその向こうには、神殿が何事も無かったかの様に佇んでいた。そして、三度目の揺れが彼を襲った。大地は裂け、神殿がゆっくりと離れて行く。彼の目に最後に映ったのは、真っ赤に輝く、かつてラーミアの神殿と呼ばれた物であった。その輝きは一瞬の内に収まり、そして白い塊は彼を乗せたまま海の底へと沈んで行った。
 
 
 (二)
 
 ・その日ダーマ地方を襲った地震は、果して何度目だっただろうか。このところ世界各地で地震が頻発していた。思い起こせば遥か以前にも似たような事があった。ネクロゴンドの山々を震わせ、次いで人々を恐怖のどん底に叩き落とした魔王バラモスの襲来。そのことを今に伝える物は少なく、今回の地震と関連づけて考える者など無きに等しかった。しかしそれでも人々の心に、不安と言う名の種を植え付けるには充分であったと言えよう。黒い影は、確実に人々の心を蝕み始めていたのだから。
 ・時を同じくして、ここガルナシア王国でも異変が起きていた。大地が激しく揺れ、空には妖しい雲が一面に広がっていた。ガルナシアと言えば四ヵ国連合の中でも二番目に国力が大きく、豊かな土壌に恵まれた実りの大い島国である。そしてその紋章と戦力の柱である竜騎士の存在から、南の翼竜と称されて来た。
 ・最初の異変は、その竜騎士に無くてはならないドラゴン達に生じた。ドラゴンと言ってもその体は小さく、人一人を乗せて飛ぶのに充分な力しか持ってはいない。炎のブレスも吐くが性格は大人しく、竜騎士達に非常に良くなついていた。そのドラゴンが命令に従わなかったり、凶暴性を現し始めたりしたのだ。そして中には制止を振り切って逃げ出す者もいた。今にして思えばそれらの変化は、丁度地震が多発し始めた時期と一致していた。事態を重く見たガルナシア王立軍本部は、竜騎士のみならず全ての兵士に対して警戒と調査を命じていた、そんな時の事であった。
 「一体、世界に何が起きていると言うのだ。調査報告はまだなのか」
 「は、ただいま国中の学者に書庫を解放致しておりますが、なにぶん伝承の類は少なく……」
 ・王の焦りは募るばかりであった。何しろ今にも空が割れて、そこから禍々しき物が這い出て来そうな様子だったのだから。と、そこへようやく情報を集めに出ていた兵士の一人が帰還した。
 「報告します。先月の始め、西の沖合いで妖しい輝きを見たとの情報を得ました」
 「西の沖合いと言えばレイアムランドの辺りか。それに国王、先月の始めと言えば……」
 「うむ、時期が合うな。よし、すぐさま兵を率いてレイアムランドを調査に行くのだ」
 ・国王は兵士と学者を集めて調査隊を編成し、それを南西に浮かぶ氷の大陸に向かわせようとした。しかし、その調査隊が出発することは無かった。報告を受けてから一時間後、これまでで最も激しい揺れが訪れた。そして空一杯に広がった雲の向こう、南西の方角から魔物の大群が襲いかかったのである。王の危惧は現実の物となった。人々は泣き叫び、ガルナシアは地獄と化した。ドラゴンを失った竜騎士は最早両腕をもがれたに等しく、その他の兵士達も長く続いた平和に慣れ過ぎていた。
 「国王、この魔物達は一体……」
 「判らぬ。これほどの魔物、尋常では無い。もしや途轍も無く大きな魔の力が復活したと言うのか。しかしレイアムランドと言えば、神に守られた聖域であったはず……。むう、せめてわが国にも魔道士がいれば。ガルクよ、やはりお前は……」
 ・・ライ……デイン!
 ・その時。突如響いた声と共に大臣の胸を一条の閃光が貫き、国王の前に一際異彩を放つ魔物が降り立った。
 「人間とは、弱く脆いものだな。我ら魔族とは比べ物にならぬ」
 「お主らは一体何者か。何が目的なのだ」
 「目的?・そんな物は無い。強いて挙げるなら、貴様ら人間の引きつった死に顔を見る事くらいだ。それともう一つ教えてやろう。神々はな、千年も昔に貴様ら人間を見捨てたのだ」
 ・信じられないその言葉に、王の表情は驚愕と絶望に凍り付いた。魔物は笑みを浮かべて言った。
 「そうそう、その表情だ。それこそ我ら魔に属する者にとって、最高のご馳走なのだよ。さあ、もっと我が腹を満たしてくれ」
 ・そう言うと魔物は腕を降り上げ、電光を散らしながら構えた盾ごと国王の体を斬り裂いた。王は薄れ行く意識の中で魔物の言葉を耳にした。
 「はっはっは……。偉大なる……魔王、……ガーク様に……あれ!」
 ・ガルナシア陥落の報が他の連合国に届いたのは、それからしばらく後の事であった。

PREV   NEXT