ドラゴンクエスト3
ドラゴンクエスト外伝〜そして、もう一つの伝説へ……〜
第一部・伝説の始まり
著作者:異界探訪
Kira’sQuest徹底攻略広場
ドラゴンクエスト3
第三章・商業都市ジギタール
(一)
・旅立ちの朝、ラミィは神父の勧めに従って、ルークラッドの武具職人が集うギルドへと足を運んだ。ギルド、それは技を同じくする者たちが集い、互いに情報を交換したり仕事を紹介しあったりする場所である。大抵のギルドにはそれを統括する者がおり、俗に主とか長と呼ばれている。ルークラッド武具職人ギルドの長、それはドルクと言う男であった。
・自称偉大なる発明王で、昔は風神の盾にバシルーラに似た敵を吹き飛ばす能力を付加したり、光のドレスに魔法を跳ね返す効果を与えたりと、確かに意義のある発明をしたらしいが、最近の作品を取ってみてもスライムの為に作ったと言う鎧や兜など、その発明の数々は殆ど役に立たぬ代物であった。本人はいずれ役に立つ時が来ると思い込んでいるのだが……。
「おはよう、みんな」
・ラミィもまた、一年前からこのギルドに所属していた。
「よう、聞いたぜ。旅に出るんだってな」
「ラシドの親父、寂しがってたぜ。ラミィのこと、実の娘みてぇに可愛がってたからなぁ」
「だけど何だってまた、旅になんか出ようって思ったんだい?」
・ギルドにいた面々が、口々に話しかけてくる。
「うん、ちょっとね。父さんの遺言みたいなものだから。それよりみんな、見て欲しい物があるんだけど」
・ラミィはそう言って、例のメダルを取り出して見せた。
「こんなメダルの事を、誰か聞いたことのある人はいないかしら」
「さあな、俺たちゃ剣や鎧を作るのが仕事だからなぁ……。こんな小せえもん細工するのは、手工ギルドの連中だな。ジギタールに行ってみるといい」
「ああ、そうだ。あそこなら人も多いし、もっと色々聞けるだろうよ。まあ、ここでその手のもんに詳しいって言ったらドルク親方くれえだし。親方じゃぁ当てになんねえからな」
「はっはっはっ、違えねえ」
・その言葉に、居並んだ男たちが一斉に笑い声を上げる。しかし、奥から出て来た当のドルクが一同を一喝した。
「やい、てめえら。儂を誰だと思っとる。偉大なる発明王ドルク様たぁ儂の事だぞ!」
「そんな事言ってるの、親方だけっすよ。そりゃ若い頃は大層な発明をしたそうですけどね」
「何を若造が!・ふん、ラミィよ。そのメダル、儂にも見せてくれんか?」
・ラミィはにっこり笑うと、すっとメダルを差し出した。
「ふぅむ、こりゃなかなか……。うーむ…………」
「何か、解ります?」
・ドルクはしばしメダルと睨めっこをしていたが、やがてラミィにメダルを返して言った。
「さっぱり解らん」
「何だよそりゃ。やれやれ、だから言ったろうラミィ。親方じゃ無理だって」
「うるさいわ。これは人の造ったもんじゃないな。たとえジギタールのギルドに行っても、こいつの事が解る奴ぁおらんじゃろう。何でも魔物どもに関係しとるとか聞いたが?」
・魔物という言葉に、周囲はざわめき立つ。
「ええ、精霊様がそう言ったの」
「ラ、ラミィはとんでもなくデカイ事をやらかそうってんだな」
「事情はよく判らんが、頑張って来いよ」
「俺達の勇者に乾杯!」
・職人たちは、皆そろってラミィに声援を送った。
「ありがとう、みんな。で親方、あたしはこれからどうしたらいいかしら」
「そうさな、取り敢えずやっぱりジギタールを目指すのが一番じゃろう。あそこは良くも悪くも世界の中心じゃ。色んな人間が集まり、色んな情報が飛び交う。ひょっとすると冒険者の中には、そいつについて何か知っとる奴がおるかも知れんし、そう言った伝説に詳しい奴がおるかも知れん」
「うん、分かったわ。ジギタールへは街道をまっすぐでいいのよね」
「ああ、ラミィの足でも十日ありゃ着くだろう。魔物には気をつけろよ」
「平気、父さんの遺してくれたこの剣もあるし」
・言ってラミィは腰の剣に手を当てる。
「アウザーも、また立派なもん遺しやがったな。かなり値が張りそうな剣だぜ。そいつがありゃ心強いさ」
・そしてラミィは、仲間たちに見送られてギルドを後にした。今まで生まれ育った故郷の街をしばらく目にする事がないと思うと少しばかり寂しい気持ちもしたが、いつまでもそうしていても仕方が無い。そう思って街から一歩踏み出した時だった。
「おぉーい、待ってくれよぉ」
「トッポ、どうしたの?」
「はぁ、はぁ、間に合った。へへ、こいつを渡そうと思って」
・言ってトッポは、ラミィに小さな袋を手渡した。
「何これ」
「薬草さ。今朝早く街外れに取りに行ってたんだ。オレも何か力になりたくってさ」
「バカね、その気持ちだけで充分なのに」
「さあ早く行けよ。オレももう行くからさ」
・トッポはラミィの決意が鈍らぬように、すぐに後ろを向いて駆け出した。
「……トッポぉ、行って来まぁす」
・ラミィが声をかけた背中は、心無しか一回り大きく感じられた。
・ジギタールに続く街道は多くの商人や旅人が通るためきちんと整備されており、大してきつい道程ではなかった。とは言えさすがに以前ほど人の数は多くなく、日に一人か二人すれ違うといった感じであった。そしてこの辺りに出没する魔物は強い力を持っていないので、人が行き交う道にはあまり姿を見せる事はなかった。
・ルークラッド周辺に生息するとされている魔物には、ダーマ神殿に行くときに遭遇したぶちスライムの他に、普通種のスライムや、蜂が魔力で巨大化したサソリ蜂、ツバメに低級魔族が憑依したデモンスワルー、それに大ネズミの突然変異種であるファーラットなどがいる。だがアウザーが遺した剣はかなりの切れ味を持ち、さしたる苦労も無くラミィはジギタールへと辿り着いた。ただ一度だけ、デモンスワルーが放ったメラの連続攻撃にやられそうになったが、ダーマ神官が与えてくれたホイミの呪文と、トッポがくれた薬草に助けられた。
・ジギタールに着いたラミィは、まず人の集まる広場へと向かった。次いで近くの店や露天商、ギルドなどを巡り、メダルや魔族たちの伝説について聞いて回った。がしかし、いくら情報の中心地と言えどラミィの求める情報を知る者は誰一人おらず、するうち辺りは夕焼けの朱に染まり始めた。夜になれば酒場に冒険者たちが集まって来るのだろうが、まだ旅慣れぬラミィはその日は早めに宿に落ち着く事にした。
・それはラミィが宿を決めて、入口をくぐろうとしたその時だった。
「あんた、伝説の事知りたいんだって?」
・不意に背後から聞こえて来た声にラミィが振り向くと、そこに佇んでいたのは年の頃十三、四の少女と、それより少し幼い少年であった。
「あたいはジール、こっちは弟のビリーよ。あんた、あちこちでメダルか何か見せて聞き回ってたでしょう」
「ええ。あなた、何か知ってるの?」
・ジールと名乗った少女は、まるで値踏みをするかの様にラミィを眺めたあと再び口を開いた。
「フレッグって人を訪ねるといいわ」
・少女はそれだけ言うと、さっさと通りを歩いて行ってしまう。
「あ、あの……。そのフレッグって人はどこに?」
「情報収集の基本は酒場だよ、お姉ちゃん」
そう言ってにっこり微笑んだのは、ジールの後を追って走り出そうとしていたビリーだった。
「じゃあまたね」
「また?」
ラミィはその言葉に何か引っかかる物を感じたが、とにかく落ち着きたい方が優先だった。
翌朝宿の主人に酒場の場所を聞いたラミィは、情報を得るだけなら昼間でも構わない事を知って早速赴いた。酒場の戸を開けると、独特の湿っぽさの中にアルコール臭がプンと鼻をつき、ラミィは少し頭がクラッとする感じを覚える。
「店は夜からだよ」
カウンターの中でグラスを磨いていたバーテンがそう答えた。
「ちょっと聞きたい事があって。フレッグって人を探してるんだけど」
フレッグ、その名を出すとバーテンの手が一瞬止まる。しかし何事も無かったように再びグラスを磨き出すと、ラミィの方を見ずに呟くように言った。
「裏通りの西の端さ」
「裏通りね、ありがとう。時間があったら夜にも寄らせてもらうわ」
「奴らに何の用か知らないが、あの辺は気をつけることだね」
ラミィはうなずくと酒場を出た。そしてその足で裏通りへと向かい、まっすぐ西を目指した。
(二)
・裏通りをしばらく行くとやがて道は細くなり、何度か角を曲がった後に一軒の家の前に辿り着いた。
「ここかしら……」
・ラミィは恐る々る戸を開けてみた。
「あのぉ、フレッグさんって……」
「やぁ、いらっしゃい」
・だがそれに答えたのは、聞き覚えのある少年の声だった。
「え?・ここってあなた達の家だったの?・じゃあフレッグって……」
「そうだよ。僕はビリー=フレッグ、お姉ちゃんはジール=フレッグさ」
「そう言うこと」
・奥にいたジールもこちらにやって来る。
「で、何が聞きたいんだっけ」
「え……、あ」
・ラミィはすっかり毒気を抜かれていた。しかしよく見ると、ジールは昨夜会ったときとは別人のような瞳の鋭さを見せていた。
「これ、なんだけど」
・そう言ってラミィはメダルを差し出した。ジールはメダルを受け取ると、それを光に透かしたり指で弾いたりして丹念に調べてみる。
「それ、魔族の復活に関係しているらしいの。同じものがあと三つあるそうなんだけど、見たこと無いかしら。信じられないかも知れないけど、あたし精霊様に啓示を受けたの。メダルを四つ集めて私の元へ来なさいって。そんな伝説か何かを……」
「知ってるよ。ええと、確かこうだったかな。四つのメダルを集めし者よ、魔を封じて神の御元へ導かれん」
・ジールは両手を挙げてさも恭しく一節を述べると、ラミィに向き直ってニコッと笑った。
「こんな伝説で良かった?」
「ええ!・そんな感じの。もっと他に無いかしら。具体的にメダルの在処を示すような」
「そうね……。その一つは山の奥に、その一つは海の底に、その一つは森の中に、その一つは地の下に……ってのもあるんだけど」
「すごぉい……。このメダルはダーマ神殿にあったの。あそこは森の中だから、後は山と海と、地の下って洞窟の事かしら」
・ラミィは次々と出て来る伝説に喜びを隠せなかった。だが、ジールはそんなラミィとは対象的に表情を引き締め、すっと手を差し出した。
「え、何?」
「何じゃ無いわよ。まさかあんた、只で情報が聞けると思ったの?」
「あ……、そうよね。情報料、これくらいでいいかしら」
・ラミィは懐から巾着を取り出すと、中から100ゴールド金貨を二枚つまみ上げる。それを見ると、途端にジールの態度が一変した。
「200……、はっ、ふざけんじゃないよ。あたいが聞かせてやったのは、今じゃ誰も知らない貴重な伝説なんだよ。それをたった200ぽっちで買おうってのかい?」
「あ、そ、それじゃもう300出すわ」
「話にならないね。5000だ。5000出しな」
「ご、5000!?」
・5000ゴールドと言えば、普通の人間が一ヵ月以上働いて手に出来るかどうか、と言う金額だった。無論ラミィが提示した500ゴールドも、彼女にとってはこれからの旅を危うくする可能性さえあったのだ。
「そんなに、持ってないわ……」
「何だって!」
・ジールはラミィから巾着を引ったくると、中身を机の上にあけて勘定を始めた。その中にはこれまで溜めてきたへそくりの他に、旅立ちの餞別としてもらったお金と、そして道中で倒した魔物から手に入れたお金を合わせても1500ゴールドしか無かった。
「ふん、まったくしけてるねぇ。冒険者って言ったらよほどの金持ちかと思ったのに。あーあ、これじゃ伝説を聞かせ損だよ。とにかく、これは全部もらっとくよ」
「そんな、それが無いとあたし、旅を続けられないわ」
「あたいの知ったこっちゃないさ。こっちだって生活かかってんだ」
・その言葉にラミィは、ジールたちの境遇も自分と似ていることを悟った。
「…………。仕方無いわ、それは全部あげる。でもそれだけよ。あなたから聞いた情報、どう考えても5000もの価値はないもの。邪魔したわね」
・ラミィは家から出ようとした。すると戸の向こうには、どこから集まって来たのか数人の少年達が、通りの入口を塞ぐようにして立っていた。
「な、何なのあなたたち」
「このまま帰れると思ってんのかよ」
「へへへ、そういうこと」
・ラミィの背後からジールとビリーも出て来る。
「姉ちゃん」
「分かってるよ。あんた、いいもんぶら下げてんじゃん。そいつをよこしな、それだったら高く売れそうだ」
「あなた、まさか昨日からこの剣が目当てで?」
・ジールはその言葉を無視して、ラミィの腰に下げられた剣を抜き取る。
「だ、駄目よそれは」
「珍しい形の剣だねぇ、金持ちの好事家に売れるかもね。まあそれでも3000ってとこか。ちょっと足りないけど、これとさっきので勘弁してあげるよ」
・ラミィはジールから剣を取り返そうとするが、少年たちによって腕をつかまれてしまう。
「駄目なの、その剣は。それは……、父さんの形見だから」
「かた……み?」
・形見という言葉にジールは反応を示す。そしてしばらく何かを考える素振りを見せ、静かに言った。
「放してやりな」
「え、でもジール……」
「いいから放しなって言ってんだよ!」
・ジールの一喝に、少年たちはラミィの腕を離した。
「あんた、親父さんがいないのかい?」
「ええ、十三年前に死んだわ。母さんも三年前にね。でも、それがどうかしたの?」
「どうやら訳ありの旅みたいだね。他の冒険者たちとは違うようだ……。中に入りな。詳しい話、聞かせてくれないか。それからみんなはもう行っていいよ、ご苦労さん」
・少年たちはジールの言葉に素直に従い、そしてラミィは再び家の中へと招かれた。
(三)
「へえ、それで旅を」
・ラミィの話を聞き終わった時、ジールの態度はすっかり変わっていた。
「あたいたち姉弟も含めて、さっきの連中はみんな親無し子なのさ。殆どの奴はまだ小さいからろくに働けもしない。だからこうやって、ちょっとでも金を手に入れようとしてるんだ。済まなかったね、あんたも道楽で冒険やってるのかと思ってさ。そういう奴が多いんだ。どいつもこいつも勇者気取りで、そのくせ嘘の情報でも簡単に信じちまう。笑っちゃうよね」
「え、それじゃ、さっきのって」
・ジールは首を縦に振って、その考えが正しいことを示す。
「だって、あんなにちゃんとしてたじゃない」
「あれはほら、あんたがどんな事を知りたいのかが分かってたから。昨日からそれらしいのを考えてたのさ」
「じゃあメダルの事も、伝説も……?」
・ジールは無言でうなずくと席を立ち、部屋の隅に行き地図を手に戻って来た。
「悪かったよ、ぬか喜びさせて。でもそんなにがっかりすること無いよ。ほらここ、このレイカーって村に、伝説に詳しい爺さんがいるんだ」
・そう言うとジールは、ジギタールからやや左上に行った辺り、海を越えた北西大陸の端を示した。
「一年前にもこの街に来て、古書店をあちこち物色して帰ってったよ。名前は確か……、ごめん、忘れちまったな。まあ多分まだ生きてるよ。レイカーに行けばすぐに分かるさ」
「レイカーへは船で行くのね。いつ出航するのかしら」
「船は出ないよ、お姉ちゃん」
・ジールの代わりにビリーが答える。
「出ないって、どう言うこと?」
「最近、特に海の魔物が活発になってきてね。海に出れるのは腕の立つ兵団を雇える金持ちの船か、或いは年に数回ギルドが用意する輸出船だけなんだ。輸出船はこの間出たばっかだしね。だけど、もしあんたが魔物を引き受けてくれるってんなら、あたいが知合い連中に聞いてやってもいいよ。どうする?・レイカーまではざっと五日ってとこだけど」
・ラミィはしばし考え、そして言った。
「…………、そうね。どの道それくらい出来なきゃ、この先旅なんて続けられないだろうし。いいわ、魔物はあたしが倒す。船代はいくら払えばいい?」
「情報料と合わせて300。それに向こうに着いて、帰りの輸出船に護衛してもらうとして、その出航までの船乗りたちの食事代として200、全部で500でいいよ」
「分かったわ。出発はいつ?」
「それはこれから話しに行ってからだ。あんたは宿で待ってるといいよ」
・そう言うと、ジールはビリーを連れてすぐに出て行ってしまった。ラミィはしばし地図を眺め、それから宿に戻ることにした。
・次の日、陽が高くなりかけた頃にジールが宿を訪ねて来た。
「まったく、みんな腰抜けばっかで参ったよ。でも一人だけ見付けたよ。名前はマーシュ、船は漁船であんまり大きくないけど腕は確かだ。ラミィさえよければ今日にでも出してくれるってさ」
「それは助かるわ。色々ありがとう、ジール」
「よしてよ。あたいはただ、あんたにこの世界をどうにかして欲しいってだけなんだから。港まで案内するよ」
・港に着くと、マーシュが出航の準備をして待っていた。
「あんたがラミィか、話は聞いてるぜ。五日間、俺とこの相棒インスマス号を守ってくれよな。その代わり俺も責任を持って、あんたを北西大陸まで送り届ける」
「ええ、こちらこそよろしく」
「ラミィ、一人しか見付けられなかったんだ。一枚返すよ」
・ジールは100ゴールド金貨を差し出す。
「いいよ、それはあたしからのプレゼント。あの子たちにパンでも買ってあげて」
「……、あたいは遠慮はしない主義なんでね。喜んでそうさせてもらうよ。じゃ気をつけて、旅の無事を祈ってるよ。マーシュ、ラミィに手ぇ出すんじゃないよ」
「俺は紳士だぜ、そんな事しないよ。それよりそろそろ行くぜ、乗ってくれ」
・ラミィが乗り込むと、船はすぐに舫い綱をとかれて海へ滑り出した。そして、ジギタールの街は徐々に小さくなって行った。
・出だしは順調だった。海のモンスターもそれ程の敵では無かった。ジールの言った通りマーシュの腕はなかなかの物で、船は何のトラブルも無く水の上を走っていた。しかし、港を出てから四日目の事だった。陸地が近いことを示す海鳥たちが、やけに騒いでいるのに最初に気付いたのはマーシュだった。ラミィは初めての船旅でもあり、船の揺れに体力を奪われて船室で休んでいた。
「おいラミィ、起きてくれ。海の様子がおかしい」
・ラミィが甲板に出たとき、色とりどりのそれは既に船を取り囲みつつあった。
「なんなのこいつら。まるで魚と蛙の合いの子……」
「噂には聞いたことがある。ジギタールとレイカーを結ぶ海域のどこかに、悪魔の暗礁と呼ばれる場所があるんだ。そこには、マーマンを小さくしたような魔物が大量に棲み着いてるってな。こいつにやられた船は、誰一人助からない。海に引きずり込まれちまうんだ。まったく、海の生き物までどんどんおかしくなっちまう」
・それはマーマンが魔力の増大に伴って、突然変異を遂げたモンスターだった。強さによって色が異なり、ギラを使う赤いガマニアン、そしてベギラマを使いこなす緑のヘルドラード、一回り程大きくヒャダルコを操る青いディープワンである。この種族は共通して、大きな一つ目と、魚類から両性類へと進化する途中段階のような体を持っている。
「幸い風が出てる。俺は全速で船を走らせるから、ラミィは奴らの呪文攻撃に気をつけながら、進行方向にいる奴を倒してくれ」
・ラミィはうなずいて舳先に立つと、行く手を塞ぐガマニアンに向かって剣を振るう。その一撃で、数匹のガマニアンが海の藻くずと消えた。だが続けて、離れた所にいるヘルドラードとディープワンが攻撃を仕掛けて来る。
「くっ、マーシュ!・呪文がくるわ。ここからじゃ攻撃できない」
「落ち着け、最後まであきらめるな」
・その言葉も虚しく、敵は一斉にベギラマとヒャダルコを放った。ラミィが思わず目を閉じた次の瞬間、放たれた閃光と氷の風が交ざり合い、それらは互いに打ち消し合ってしまった。その結末に、ヘルドラードたちは呆然としている。
「呪文の相互干渉……?・とにかくチャンスだわ。マーシュ、あいつら何が起きたか解らないみたい。注意がそれてる今の内に」
「分かった!」
・そしてインスマス号はガマニアンたちの群れを引き離し、どうにか安全圏まで脱出することに成功した。
「ふう、一時はどうなる事かと思ったわ」
「俺たちは運が良かったんだ。見ろよ、舵輪が浮いてやがる。どっかの金持ちの船でもやられたんだろう。それより陸地が見えてきたぜ。明日の昼頃には着くだろう」
・その言葉通り、ラミィたちは翌日の正午に小さな港に到着した。そこにはジギタールから来た輸出船も停泊しており、マーシュはその船と一緒にジギタールへ戻ることになった。
「じゃあここでお別れだ。レイカーは街道に沿って歩けばすぐだぜ」
「ありがとうマーシュ。ジールたちに会う事があったら、よろしく言っといてね」
・マーシュに別れを告げたラミィは、再び陸路をレイカー目指して歩き出した。