ドラゴンクエスト3
ドラゴンクエスト外伝〜そして、もう一つの伝説へ……〜
第一部・伝説の始まり
著作者:異界探訪
Kira’sQuest徹底攻略広場 ドラゴンクエスト3

  第四章・古代の記憶

 (一)
 
 ・北西大陸は西に大きく弧を描いた形をしており、クレセント大陸とも呼ばれている。中心に四ヵ国連合の一つサンドローグを擁し、北半分が深い森林地帯、南半分が山岳地帯となっている。上端に相当するオベリア岬は小さな島を挟んで北の強国ライナスと繋がっているが、森は精霊によって守られているため、邪な感情を抱く者は永久に森から出られないという伝説があり、そこを通る旅人は少ない。一方下端に相当するアンデル岬には小さな港があり、ジギタールやライナスからの航路の終着点になっている。港からはサンドローグに向けて街道が伸びており、旅人や隊商はそこを通って王都を目指すのである。
 ・レイカー、その村はそんな街道の途中に位置する小さな山村である。尤も村の方が先にあり、後から村を通るように街道が敷かれたのであるが、それによってレイカーの村を訪れる旅人の数は急増した。村には大きな宿屋が建てられ、村の名物饅頭なども作られたりしたが、それらは所詮一時の事に過ぎなかった。特に魔物が出没するようになってからは旅人の数も隊商の数も減ってしまい、村はすっかり静けさを取り戻していた。そんな訳だから、ラミィが村を訪れたとき村人は好奇の目で彼女を見たのだった。
 「やんれ、旅の人とは珍しい。あんたもサンドローグに行くのかい?」
 ・その農夫も、ラミィをジロジロと眺めてそう言った。
 「いえ、ちょっと人を探してるの」
 「そりゃ、益々珍しいこった。こんな小さな村に、一体誰を訪ねて来んさった?」
 「それが……、伝説に詳しいお爺さんがいるって聞いたんだけど」
 「ああ、そりゃきっと村長の事だべ。マニトちゅう爺さまで、村の一番奥に住んどるよ」
 ・教えられた道を行くと、狭い村の事、老人の家はすぐに見つかった。しかし老人は留守だった。扉にはカギが掛かっており、しばらく待ってみたが戻って来る様子は無い。仕方無くラミィは、取り敢えず宿に向かうことにした。
 「ようこそ旅の宿へ。お泊まりですか、お嬢さん」
 「ええ、お願い。それより、村長さんっていつもいないの?」
 「え、村長まだ戻ってなかったですか?」
 ・宿の主人は怪訝そうな顔をする。
 「まだって、どこに行ったか知ってるの?」
 「ええまあ。今朝ほど裏山にキノコか何かを採りに行くって言ってましたよ」
 「キノコ?」
 「何でも魔法の研究に使うとか何とか」
 ・宿には他に客もなく、ラミィが興味を示したのを見て取ると、主人は隅の椅子を勧めて話し出した。
 「そもそもあの爺さまは昔サンドローグの神官長を務めてたとかで、お嬢さんも旅の人なら、サンドローグが魔道都市と呼ばれてる事はご存じでしょう。尤もその力も、魔族相手じゃどこまで通用するかって具合らしいですけどね。ところで、村長にどんなご用なんです?」
 「これを、見てもらおうと思って」
 ・ラミィがメダルを差し出すと、主人はやや驚いた表情を見せた。
 「おや、この模様……、どこかで見た覚えがありますね」
 「本当!?・ど、どこで?」
 「ええ、確か村長の家で見たと思いますよ。もし急ぎの用なら、道具屋ンとこのティムに聞いてみるといいですよ。あいつは良く村長の手伝いとかしてますから」
 
 「村長っすか?・今日は確か、裏山へキテキテダケを採りに行くって言ってたなぁ」
 ・道具屋の裏で在庫整理をしていた青年、ティムはそう答えた。
 「本当は俺が頼まれたんすけど、今朝は親父に店の方を手伝うように言われたもんで」
 「じゃ、あなたは場所を知ってるのね」
 「なんなら案内しましょうか。まだ帰ってないなんて、俺もちょっと心配だし」
 「お願いするわ」
 ・裏の山へと行く道すがら、ティムは色々と教えてくれた。
 「最近は、そのキテキテダケを使って新魔法の研究をしてるんです。俺も道具屋のせがれだけど、将来は魔法使いにでもなりたいって思ってて。それで村長のとこに弟子入りしたんすよ」
 「へえ。で、何か魔法は使えるの?」
 「まあちょこっとね。ギラと、後マヌーサをこの間覚えたばかりっす。あ、もうすぐそこですよ」
 ・とその時であった。二人の足音を聞きつけたのだろう、林の奥から微かな声が聞こえてきた。
 『おぉーい、儂はここじゃよぉ』
 「あれ、村長の声っすよ。村長ーー!」
 ・二人が駆けつけると、村長は木の根本に座り込んでいた。
 「どうしたんすか、村長」
 「いやはや年は取りたく無いもんじゃて。転んだ拍子に足を折っちまったらしい。おや、そちらの娘さんは?」
 「あたしラミィって言います。ジギタールであなたの事を聞いて、伝説の事を教えてもらいに来たんです」
 「ほぅ、それはそれは。こんなとこまでわざわざ来てもらって申し訳ないが、取り敢えず家まで連れて帰ってもらえんかの。話はそれからじゃて」
 ・ところが、ティムが村長を背負おうとした所へ一本の矢が飛び来て、木の根本に深々と突き刺さる。
 「モンスター!?」
 ・振り向いたラミィの視線が捉えたのは、空中に浮かんで二の矢をつがえようとしているアロードッグと、大きく成長した緑色のスライムに跨った剣士、スライムナイトだった。
 「くっ、ティムは村長さんをお願い」
 ・言うが早いかラミィはアロードッグに向き合い、口の中で呪文を唱える。
 「炎よ、形を取りて敵を焼け。メラ!」
 ・ダーマ神官に教えてもらったメラの呪文、今ではすっかり使いこなせる様になっていた。掌から放たれた火の玉はアロードッグを直撃し、羽を焼かれて落ちて来たところをラミィは剣で斬り払った。
 「危ない!」
 ・しかしその隙を突いてスライムナイトが斬りかかって来る。
 「閃く紅き光よ、我が意のままに彼(か)を焼き払え。ギラ!」
 ・ティムの放った閃光はまっすぐスライムナイトへと伸び、その衝撃で少しばかり後退させた。が、起き上がったスライムナイトの体には、殆どダメージは見られなかった。
 「駄目、あいつにギラは効かないわ。でも助かった、ありがとう」
 ・何とか体勢を立て直したラミィだが、剣の腕はスライムナイトとほぼ互格だった。いや、むしろラミィの方が劣っている。徐々にラミィは追い詰められ、背中に大きな樹がぶつかる。
 「ティム、マヌーサを使うんじゃ」
 「え、でもあれはまだ……」
 「儂は疲れて魔法は使えん。お前がやるしかないんじゃ。大丈夫、教えた通りにやればきっと出来る」
 ・ティムはラミィをちらりと見やる。もう後が無い。ラミィの腕では次の一撃は避け切れまい。ティムはごくりと唾を飲み込むと、ゆっくりと呪文を唱えはじめた。
 「き、霧よ……。その……水、水滴に……」
 「落ち着け、魔道の極意を忘れるでないぞ。己の心を強くし、揺らぎ無い信念で呪(しゅ)を唱えよ」
 「己の心を強くし、揺らぎ無い信念で呪を……。よし、もう一度。霧よ、その揺蕩(たゆと)う水滴に彼の者を映し出せ。その幻影にて敵を欺け。マヌーサ!」
 ・その瞬間、今正にラミィに刃を伸ばそうとしていたスライムナイトの周囲に、青く輝く魔力の霧が発生する。
 「で、出来た!」
 ・一人、また一人と数を増やすラミィに一瞬ためらうスライムナイトだが、意を決して剣を突き出した。だが、そこにラミィはいなかった。スライムナイトは空を切った剣を構え直し辺りに視線を巡らせるが、背後に気配を感じた時には、ラミィの剣が既に下のスライムにまで達していた。
 
 
 (二)
 
 「ティム、あなたのお蔭で助かったわ。凄かったわよ」
 「いや、あれはまぐれっすよ。それに俺だけの力でもないっす。村長がいなかったらきっと……」
 ・ラミィ達は既に村長の家に戻って来ていた。
 「では村長、くれぐれも安静に」
 ・村長の足を治療した神父が帰って行く。この世界には医者と言う職業は存在せず、治癒呪文を使える神父がその役割を担っているのである。尤も治癒呪文は万能ではなく、普通の神父の力ではあくまで応急処置に過ぎない。じっくり時間をかけて、少しずつ呪文治療を施してゆく必要があるのだ。
 「やっぱり俺が一緒に行っときゃ良かったっす。新呪文の研究も、しばらくはお休みっすね」
 「なに、儂も少し油断しておった。まさかあの辺りにまで魔物が出るようになっておったとは」
  その言葉は、今や魔物の影が世界中に蔓延しつつある事を如実に物語っている。
 「まあ、呪文研究の方は足がこれでも支障はなかろう。それより娘さん、ラミィと言ったかの。改めて自己紹介しよう、儂がこのレイカーの村長マニトじゃ」
 「早速ですけど、このメダルを見てもらえますか」
  ラミィの差し出したメダルに目をやると、マニトは信じられないと言った感じでそれを受け取った。
 「ほお、これはこれは……」
 「宿屋のご主人が、ここで似たような模様を見たと」
 「ティム、そこの棚から例の石版を取ってくれんか」
  ティムはその言葉に従い石版を取ると、それをラミィに渡した。
 「こ、これは……。メダルと同じ?」
  それは大きな石版の右上に当たる部分の欠片だった。大きさはおよそ手の平と同じくらい、全体の大きさはその四倍と言ったところか。そこにはラミィの持っていたメダルに刻まれていたのと同じ、ジグザグの溝が彫られ、その横と下に何やら古代文字が記されていた。それは、メダルの周囲に刻まれていたのと同じ類いの物であった。
 
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 「ふぅむ、やはりこの石版には秘められた意味があったと言うことかの。まずはこの石版の事を話してやろう。この紋様、これは雷(いかずち)を表しておる。ここじゃ、ここのところ、実はまだここしか解読に成功しておらんのじゃが、ここにはこう記されておる」
 
 ・・『雷撃の鉾を持ちたる海洋神ポセイドン、その鉾を持て邪悪なる力を封じん』
 
 「そしてこの、少しだけ隣の部分にまで達しておる箇所、ここには『ラー』の文字が読める」
 「ポセイドンに、ラー……?」
 「うむ。ラー、太陽神ラーじゃ。ほれ、そのメダルにもポセイドンの名が刻まれておる。この事から儂は、この石版が古の時代に人間界に大きく関与したとされる四人の神か、或いはその力の結晶である四つの精霊力の事について書かれた物じゃと推測しておったのじゃ。すなわち、太陽神ラー、大地神ガイア、海洋神ポセイドン、そして創造神ルビス……」
 ・ルビス、その名前を耳にした瞬間、ラミィの全身を電気が通り抜けたような衝撃が襲った。
 「ルビス……、創造神……ルビス……?」
 「そうじゃ。遥か昔、創造神ルビスはこの大地の下にアレフガルドと言う新天地を創造したと伝えられておる。そして古の勇者が世界を救ったその時、アレフガルドは一個の世界としてルビスの手を離れた。その後ルビスは再びこの世界に戻り、神々に代わって人間を見守っておると物の本には記されておった」
 「実は、あたしの旅の目的は……」
 ・ラミィはこれまでの経緯を語って聞かせた。その話を聞き終わったとき、マニトは震えを隠せなかった。
 「……、何とその様な事が。正直儂も半信半疑じゃったが、よもや伝説が全て真実を示しておったとはのぉ。よろしい、この儂の知り得る限りの伝説を伝えよう」
 ・そしてマニトは目を閉じると、ゆっくりと伝説を語り始めたのだった。遥か古の、神と人間が共に暮らしていた時代の事。暗黒の世界から訪れた魔王が世界を闇に染めた時、勇者が現われてこの世を救った事。その後神々は平和になった人間界から離れ、ただ一人地上界を見守る役目を授かった神がいた事。
 「その神が、今儂らの住むこの世界の上、すなわち天上界にてこの世を守護しておると言われておる。地上をルビスが、天上をその神が統べておる訳じゃ。伝説に曰く、四神の力を受け継ぎし者、銀の鍵を手に窮極の門を開かん。そもそも神の城は、四つの精霊力によってその存在を維持していたらしい。そしてその力が揺るがぬよう何等かの形でこの人間界に封印された。何故その様な重大な力を人間たちに託したのか、残念ながらそこまでは判らん。神のみぞ知る事じゃ。
 「つまるところそのメダルが魔の復活に関与しておると言うことはじゃ、そのメダルに何等かの力、すなわち精霊力が宿っておったと言うことじゃろう。そしてその力が失われてしまった為に、魔が復活してしまった訳じゃな」
 「じゃあ、四つのメダルを集めろって言うのは……」
 「メダルが一所に集まれば、再び力を取り戻して魔が封じられるのか。それとも伝説の通り、四つのメダルを集めることで四神の力を得ることが出来るのか……。とにかく今は情報が足りぬ、これ以上の事は判らんのぉ」
 ・マニトが話し終えたとき、既に外は陽が落ちてしまっていた。いつの間にかティムが、火を灯した蝋燭を手にしている。その火をランプに移すと、家の中は暖かい光で満たされた。
 「さて、今夜は宿に泊まるのかの?」
 「ええ、もう部屋を用意してもらってます。それでこれから……」
 「これからの事なんじゃが……」
 ・一瞬二人の言葉が重なり合う。
 「うむ。取り敢えずサンドローグの図書館に行けば、今より詳しく調べられるのじゃが、何せ儂の齢では遠すぎるからのぉ。そこでじゃ、差し当たってミールベリーに行ってはもらえんじゃろうか」
 「ミールベリー?」
 「あの近くには古代遺跡があるのじゃ。そもそもこの石版は十年前にそこのオークションで手に入れた物でな。遺跡の出土品だったんじゃよ。そして遺跡は今も発掘作業が続けられておって、近くまたオークションが開かれるそうじゃ。そこにまた、石版の残りが出て来る可能性もある。あそこまで位なら儂が出かけて行くつもりだったんじゃが、この足ではそれも無理と言うもの」
 ・マニトはそう言って包帯を巻かれた足を摩ってみせる。
 「そこでじゃ、このティムと一緒にオークションへ行って来てはもらえまいか。ティムには近いうちに行くと言ってあったの」
 「はい」
 「あたしとしても情報は欲しいですから、それは構いませんよ」
 「じゃあ、明日の朝出発って事でいいっすか。ミールベリーまでは街道を七日ほどだと思います」
 ・ラミィはうなずくと、マニトの家を出た。すっかり暗くなってしまった屋外は、山から吹き下ろす冷たい風が吹き荒れていた。ラミィは軽く身震いすると、宿への道を急いだ。そこから遠く離れた小高い丘の上、そっとラミィを見下ろす影が一つ。その影は口の端を歪めると、そのまますっと姿を消してしまった。勿論ラミィも、他の誰も、それに気付く者はいなかった。
 
 
 (三)
 
 ・翌朝ラミィは村の道具屋で必要な物を買い揃えると、再びマニトの家へ向かった。そこには既にティムが準備を整えて待っており、ラミィの姿を見留めると駆け寄って来た。
 「おはようっす。村長はまだ眠ってるっす。多分昨日の疲れが残ってるんじゃないかな」
 「そう、じゃあこのまま行きましょうか」
 ・二人は朝の澄んだ空気の中、村道を歩いて行く。百姓の朝は早いらしく、既に田畑では仕事を始めている姿が目に付く。彼らはティムに気付くと互いに挨拶を交わし合った。そうこうしながら二人は村の入口を抜け、街道へと出たのだった。
 
 ・ミールベリーに向かう道すがら、ラミィは一層剣の練習に励む様になっていた。裏山での一戦、あれで自分の力不足を痛感したのだ。海では殆どまともに戦闘を行っていなかった。更に港からレイカーまでが近かったせいもあって、あの戦闘は北西大陸に入って初めての戦いでもあった。これから更に熾烈を極めるであろう魔物との戦いに、今のままの力では到底太刀打ちできない、ラミィはそう悟ったのだった。幸い強い魔物は街道まで出て来る事は無く、ティムのマヌーサを併用すれば剣の稽古に丁度良い相手となった。
 ・ミールベリーまでの七日間、ラミィが腕を上げたのは剣だけではなかった。ティムに魔道の基礎を教わり、呪文の特性を知ることで応用強化を学んだのだ。その結果、元から持っていたメラとホイミの呪文をメラミ、ベホイミの域に高めることに成功した。ティムは正直その才能に驚き、ラミィ自身も自らの内に眠る秘められた力に気付き始めた。
 「まったくラミィさんは凄いっすよ。俺なんて村長のとこで勉強するようになってからもう三年も経つのに、いまだにギラとマヌーサだけだもんなぁ」
 「ティムの教え方が良かったのよ」
 「いや、はっきり言って俺が教えたことはきっかけに過ぎないっす。後はラミィさんの素質っすよ。村長も言ってました。魔道に関してだけは、素質のない人間にいくら教えても無駄だってね。やっぱり神様に選ばれるだけの事はあるなぁ。っと、そろそろミールベリーが見えて来たっす」
 ・ティムが指さす先には、そこそこに賑わう小さな町が広がっていた。
 
 ・ミールベリー、そこは春と秋に開かれるバザーと、不定期で催されるオークションで有名な町だった。規模こそ小さいが、この二つが開催される時にはそれこそジギタールに負けない位の賑わいを見せる事もある。だがしかし、ティムには何故かいつも程の盛況さが感じられなかった。
 「よぉ、ティムじゃないか。何だ、今日は爺さんの代わりに可愛い彼女と来たのか?」
 ・そう声をかけて来たのは、広場の入口で看板を立てていた男だった。
 「やだなぁ、そんなんじゃないっすよ。お久しぶりっす、親父さん。村長はちょっとケガしちゃいましてね。こっちはラミィさん、旅をしてるんす。ここへはちょっと訳ありで、それでついて来てもらったんすよ」
 「こんにちは。実はレイカーの村長さんが、十年前に買って行ったっていう石版の残りを探してるんだけど。今回のオークションには出品されてるかしら」
 ・ラミィの言葉に、男は一瞬困ったような表情を見せ、そして口を開いた。
 「実はなぁ、ちょっとしたトラブルが発生したんだよ」
 「そう言えばなんとなく人が少ないみたいっすけど」
 「そのトラブルと関係があるんだが、まあ詳しい事は中で聞いてくれ」
 ・男に示され二人が広場の中へ入って行くと、中央辺りに設けられたテントの前で、オークションを取り仕切っている競売ギルドの男が二人話し込んでいた。
 「ちわっす」
 ・ティムの声に二人はこちらを振り向き、
 「じゃあ、そういう事で頼むよ」
 ・それだけ言って片方の男は、二人を一瞥して去って行く。
 「やぁティム。マニトは一緒じゃないのかね」
 ・残っていた老人、競売ギルドの長が話しかけてくる。
 「ええ、ちょっと。それより何かトラブルがあったとか?」
 「ああ。実は遺跡に発掘に行ってる連中が、予定の日になっても戻らんでな。彼らが戻らないとオークションの目玉が出せないってんで、延期にしようかどうしようかと相談しておったんじゃよ。一週間前に二人ほど調べに行かせたんじゃがそれも戻らず、ちょうど昨日旅の剣士がやって来て、話をしたら俺に任せろって探しに行ってくれたんだが彼もまだ戻らんしな」
 ・その話に、ティムとラミィは顔を見合わせる。
 「それで人が少ないんですか」
 「まあ、それだけが原因でもないんじゃが……」
 ・長は何かを言いかけやめる。ティムはそれに気付かなかったらしく、気にも留めずに話を進めた。
 「俺達も行ってみますよ。実はこちらのラミィさんとうちの村長が、どうしても遺跡の出土品が要りようなんすよ」
 「それは、行ってもらえればありがたいが……。お前さん達まで戻らなかったらと思うとなぁ」
 「大丈夫っすよ。俺達だって強いっすから」
 ・ギルドの男はしばし考えあぐねている様だったが、やがてうなずいて言った。
 「それじゃあ行って来てもらうとするか。予定ではオークションの開催期間は明日から三日間。出土品が無いのを知って帰った者もおるが、まだ残って待っておる客もおってな。一応目玉を最終日に回して、その他の品からでも始めようって事でさっき決まったんじゃよ。じゃから、出来ればそれまでに戻って来てもらえると助かる」
 「分かったっす。遺跡まではそう遠くないし、往復で二日もあれば十分っすよ」
 「それより、さっき言いかけた他の原因って?」
 ・ラミィの問いに、長はやや言い渋る。
 「うむ、それがな……。あまり大きな声じゃ言えんのだが、一番の客であるサンドローグが不参加の通知をよこしたんじゃよ。最近になって関所の通過が厳しくなったとも聞くし、ギルド内では皆何かあったんじゃないかと噂しとる。最近、特に色々と物騒じゃしな」
 ・魔道都市であるサンドローグは、遺跡の発掘に資金援助をするなど、その出土品にかなりの興味を示していた。そもそもマニト翁が十年前に手に入れた石版は偶然に発見されたもので、正式な遺跡調査が開始されたのは今から三年前であった。その出土品がオークションにかけられ、それを目にしたサンドローグの魔術士が王宮に進言し、全面的な協力を申し出たのがその半年後である。オークションが町の貴重な財源である事もあって、サンドローグは遺跡及びその出土品を接収せず、正当な方法つまりオークションへの参加と言う形でそれらを手に入れて来たのだった。当然ミールベリーにとってそれは有難いことであり、彼らが不参加と言う事実は世情の不安を煽るのに充分と言えよう。
 「そういう訳じゃから、ギルド内でも少々士気が下がっておってな」
 「そっちも気になるっすけど、とにかく遺跡に行って来ますよ。ひょっとしたら今ごろ、帰って来てる途中かも知れないっすよ」
 ・そうしてラミィとティムは、町から北東へ行った山中にある古代遺跡へと向かう事になった。

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