ドラゴンクエスト3
ドラゴンクエスト外伝〜そして、もう一つの伝説へ……〜
第一部・伝説の始まり
著作者:異界探訪
Kira’sQuest徹底攻略広場
ドラゴンクエスト3
・・・・・第五章・最後の竜騎士
(一)
・一口に古代遺跡と言っても、実際それがいつ頃造られた物なのか、或いはいつから遺跡となってしまったのか、詳しいことはまだ殆ど明らかにされてはいなかった。現在レイカーに存在する石版のかけら、それが発見されたのは全くの偶然だった。山で炭焼きをしていた男が小屋を新しく建てるのに基礎を作っていたところ、地面の中から奇妙な紋様と文字らしき物の刻まれた石が出て来たのである。男はそれを、炭と一緒にミールベリーのバザーに売りに出したのだが当然石は売れず、その後ギルドに持ち込み50ゴールドで引き取ってもらった。ギルドは好事家に売れるかもしれないと考え、試しにそれをオークションに出品してみたところ、当時サンドローグの神官職を退き故郷のレイカーに戻る途中であったマニト翁がたまたま見付け購入したのである。マニトはそれから七年かけて石版の事を調べ、北の山に遺跡が眠っている可能性のあることを突き止めた。そして、ミールベリーの競売ギルドはそれを知ると、オークションの目玉商品が手に入るのではと遺跡の発掘を始めたのである。
・遺跡の規模は現在分かっているだけでも、地下に五階層、面積は普通の家が数軒建つくらい。そして内部には神や精霊を祭った祭壇や、不思議な雰囲気を持つ石像などが点在している、マニトはそれを、人間が神と唯一の接触を図るための施設であると考え、神々が人間界を去ったと言う伝説を裏付ける証拠であると説いた。実際、そこで豊作や雨乞いなどの祈りが捧げられていた事を伺わせる遺物が、幾つか見つかっている。人々は遥か古の時代を思い描き、今一度神々の力を求めようとしたのだろう。だがその結果は望ましい物ではなく、やがて祭祀場は寂れ朽ち果ててしまった。
・当初は祭祀場が何故山の内部に建てられたのか、それが大きな疑問であった。その謎を解く手掛かりは、内壁に空けられた正方形の孔にあった。孔の向こうはすぐ土になり、孔の下にその土が崩れて来ていたのだ。それが何を意味するのか、答えは発想を転換することで容易に得られた。つまり、この遺跡は山の内部に建てられた物ではなく、元々屋外に建てられたものが長い年月のうちに埋まってしまったのだ。四階下ったフロアに設けられた開かない扉と、最下層の壁に孔が一つも見られない事が、それを裏付ける証拠にもなった。これらの要素から遺跡の構造を推察すると、地上四階、地下に最低一階の巨大な塔であると思われる。
・ラミィ達は今、塔の三階に相当する部分を歩いていた。
「この辺は発掘も済んで、綺麗に整理されてるみたいっすね。何でも全ての調査が済んだ後は、ここを博物館みたいに一般にも解放するとかって話もあるみたいで」
「へえ……。ここ、何かの神殿みたいな建物ね。ここから石版が出たって事は、この遺跡自体も伝説に関係してるのかしら」
・二人が次のフロアへと歩を進めようとしたその時だった。
・・キィキィ……バタバタタタ……
・黒く口を開けた階段の下から飛び出して来たのは、深く吸い込まれるような蒼色をした蝙蝠ドラキーと、それより一回り小さいが呪文を使いこなす真紅の蝙蝠メイジドラキーだった。突然の出現にラミィは驚き後ろに転ぶが、ティムがすかさずフォローに回る。
「爆炎よ、この者たちを吹き飛ばせ。イオ!」
・巻き起こる炎がドラキー達を包み込み、舞い上がる土埃が静まった時そこには既に魔物の姿は無かった。
「ふぅ、驚いた。でもティム、いつの間に新しい呪文を?」
「俺だって負けていられないっす。それより、急いだ方がいいかも知れないっす。遺跡の中に魔物が入り込んだにしては……」
・言いながらティムは注意深く下のフロアを覗き込む。
「上じゃなく下からってのが気になるっす」
「確かに変ね。なんだか嫌な予感がするわ」
・二人は急いで階段を降りると、最下層を目指して走り出した。フロアを下へ行くに連れて、ラミィの嫌な予感は強まっていった。徐々に魔物が強くなってくる、彼女はそう感じていた。そして地下一階に相当する最下層に辿り着く頃には、炎の精に邪悪な意思が宿ったフレイムマンや、黄色く醜い肉の塊にしか見えないがバギの呪文を操るドルイドなどが襲って来るようになっていた。
「炎よ、敵を包みて焼き尽くせ。メラミ!」
・ラミィが何匹目かのドルイドを葬り去った頃、二人はフロアの奥の方に崩れた壁を発見した。その向こうからは微かな光が漏れており、何やら金属のぶつかり合う音が聞こえて来る。
「何か聞こえるっす。ひょっとしてこの向こうに?」
・その壁の向こうには、新たなフロアへと続く階段が伸びていた。二人がゆっくりと降りて行くと、やがて松明に照らされたその下に数人の男が倒れているのが見えて来た。
「大丈夫っすか!?」
・ティムが駆け寄ると、その内の一人が辛うじて弱々しく答えた。
「ま、魔物が出て来たんだ……。あいつを、た、助けてやってくれ……」
「あいつ?・誰の事っすか?」
・男が指さす先からは時折、上の階で聞こえた剣激の音が響いてくる。
「誰か戦ってるんだわ。多分、ミールベリーで聞いた若い剣士よ。そうでしょう?」
・その問いに男はうなずく。
「ティムはこの人達をお願い。あたし、ちょっと行って来る」
「あ、待って下さい。俺も……って、あーぁ、行っちゃったっすか」
・ラミィが通路を進んで行くと、やがて大きな広間に出た。その中央には崩れた小さな台座があり、その前で槍を振るう男と蝙蝠の翼を持った魔物が戦っていた。
「加勢するわ!」
「どこの誰かは知らんが、助かるぜ」
・男はラミィに気付くと後ろに飛んで大きく間合いを取り、手にした槍を構え直した。
「こいつ、そこの穴からでてきやがったんだ」
・男が示す場所には例の台座があり、よく見るとその中程にぽっかりと穴が空いている。
「上にいた魔物たちも、みんなそこから出て来たらしい」
「それって、どういう事?」
「とにかくそいつは後だ」
・会話の合間を縫って、魔物は攻撃を仕掛けて来る。男はそれを槍で受け流すと、ラミィに目で合図をして呪文を唱え始めた。ラミィはそれが時間稼ぎの合図である事を理解し、単身魔物と向かい合う。じりじりと間合いを詰め、隙を見て剣を突き出す。魔物はそれを爪で受け止め、もう片方の腕を振り下ろすが盾に弾かれる。その瞬間、魔物の体を青い光が包み込んだ。
「炎よ、我が槍に宿りて敵を焦がす力となれ!」
・そして床を蹴った男の槍が、炎の尾を引いて魔物の体を貫く。魔物は断末魔の悲鳴を上げる暇もあらばこそ、そのまま一瞬の内に塵と化してしまった。
「す、すごい……。あなた、強いのね」
「なに、君が奴を引き付けてくれたからさ。それと、バイキルトとルカニを併用したからな」
「あぁ、あの青い光……。それで時間が必要だったのね」
「ラミィさぁん」
・とそこへ、ティムがやって来る。
「あの人達は?」
「特に心配無いっす。一応、薬草で応急処置はしときましたから。それより、ここは一体何なんすかねぇ」
・そう呟いて上を見上げたティムの目には、天井一杯に描かれた奇妙な魔方陣が飛び込んで来た。
(二)
「で、さっきの言葉の説明をお願い出来るかしら」
・ラミィは男の方を向く。
「ああ、魔物がそこから出て来たって奴かい?・見たところ、君達もミールベリーから来た口だな」
・男はラミィとティムを交互に見やる。
「だったら取り敢えず、最初のとこから話そうか。俺がこの遺跡に入った時、既に中は魔物で一杯だった。俺はそいつらを倒しながらここまで降りて来たんだが、部屋の入口には男が三人倒れてて、そして部屋の中では残りの二人が……、ケンカをしてた」
・男は冗談っぽく言った。
「喧嘩?」
・ラミィは一瞬、男の言っている事が理解出来ないと言った表情を見せる。
「ああ、ケンカだ。と言っても、二人とも目が妙な具合に光っててな。これはおかしいと思って調べてみると……」
・男は言いながら台座に近付いて行く。そして穴の中を覗き込むと、ラミィの方を向いてニコッと笑った。
「どうやら、さっきのが最後だったみたいだな。もう上の魔物もどこかに行っちまっただろう」
「……、どう言うこと?・まだよく飲み込めないんだけど」
「つまりこの部屋は、何かの理由で魔物を封じ込めるために造られたらしいんだ。その封印を、あの連中が誤って解いてしまったんだろう」
・男は通路の向こうに視線をやる。
「まあその辺の詳細は専門家に譲るとして、俺が解るのは彼らが魔物に操られて互いに戦わせられていたって事と、そこから生まれる負の感情を奴が美味そうに喰らってたって事だけだ」
「負の、感情っすか?」
「ああそうだ。魔族ってのはどうして人間を襲うか知ってるか?・奴らは人間を食べるために襲うんじゃ無い。奴らの糧となるのは生き物が発する負の感情、つまり憎しみ、悲しみ、怒り。そう言った物を好んで喰らうんだ。だから奴らは余程の事が無いかぎり人間を殺しはしない。殺してしまったら感情は生まれ無くなっちまうからな」
「酷い……」
・ラミィは拳をギュッと握り締める。
「でもそれじゃどうして魔物の被害に遭う人が後を絶たないんすか?」
「それは、答えは三通りある。一つ目は魔族と魔物の違いだ。純粋に負の感情のみで生きているのは魔族であり、ただの魔物は人間を捕食の対象と捉えている物も多い。二つ目は何らかの理由で人間が奴らの障害になっているって事だ。例えば魔族の事を知りすぎた人間は、見せしめに殺される事もある。最後は人間が余りに弱すぎる存在って事だ。奴らとしては殺すつもりが無かったとしても、人間は些細な事でその命を落としてしまう。尤も奴らにしてみれば、ほんのちょっと卵を強く握ってしまったくらいにしか、感じないんだろうけどな」
・男はふっとため息をつく。
「なんだか、やり切れない話っすね……。まあ取り敢えず、一旦町に戻りましょう」
・ラミィ達は何とか歩ける者と共に、重傷の作業員を連れて遺跡を出た。
・ミールベリーへと戻ったラミィ達は、取り急ぎ怪我人を教会へと連れて行き、その後広場で待っていたギルドの長に事の次第を報告した。
「何と、その様な事が……。で、魔物はもう?」
「ああ、最初にあのフロアに入った奴の話を聞かないと何とも言えないが、今後の発掘には腕の立つ傭兵でも連れてって注意しながらやれば大丈夫だろう」
「ありがとう御座いました。これは少ないのじゃが、礼の気持ちと思って受け取って頂けるかな?」
・長は金貨の入った小さな袋を差し出し、男は軽くうなずいて受け取った。
「じゃあ俺は行くとするか」
「もう行っちゃうの?・そう言えば名前、まだ聞いて無かったわね」
「これから去ろうって男の名前が必要かい?」
・男はこちらに背を向けたまま言った。
「あなたとは、何だかまたどこかで会いそうな気がするの」
「そいつは奇遇だ。実は俺もそんな気がしてる」
・男はクルリと向き直る。
「それじゃ名乗っておこう。俺の名はガルクだ。おっと、あんたの名前は聞かなくてもいい。遺跡でそっちの彼が名前を呼んでたからな、ラミィって」
・ガルクはティムを見る。
「それじゃ、縁があったらまた会いましょう」
・ガルクは肩越しに手を振りながら、広場の外へと消えて行った。
「さて、と。で、肝心のオークションの方はどうなるの?」
「魔物が出んと言うのであれば、もう一度誰かを取りに行かせればよかろう。お前さん達にはそれまで待ってもらう事になるが……」
・そこへ、教会で治療を受けていた内の一人がやって来た。
「長、これを」
・言って男は幾つかの石のかけらを差し出す。
「おお、これは……」
「さすがに手ぶらで帰るのも申し訳なく思って、目に付いた物を適当に持って来たんです」
・ラミィはその中に、見覚えのある物を発見した。
「ティム、これって石版のかけらじゃない?」
「あ、そうですよ。これは変なところで途切れてるけど、何かのシンボルと説明文の位置関係がそっくりだ」
・ラミィは石版を手に取って眺めてみる。そこには『┣』という紋様が刻まれていたが、左端は途切れてしまっている。
「捜し物と言うのは、それの事じゃったのかな?・確かそれと同じような石版を、数年前にも見た記憶がある。その倍くらいの大きさで、サンドローグの魔術士が買って行ったはずじゃ」
「本当ですか?・この倍って事は、多分それで全部が揃うわね。ねえ長さん、これをあたし達に譲ってくれないかしら。もちろんお金は払うわ。村長さんからも代金を預かってるし」
・しかし長は首を振って言った。
「いや、それはお前さん達にやろう。遺跡の件に関する報酬じゃ」
「ありがとうっす。よかったっすね、ラミィさん」
・ラミィはうなずく。
「取り敢えず残りの石版の在処も判ったことだし、レイカーに戻りましょうか」
「そうっすね」
・二人はギルドの長に別れを告げると、再び街道をレイカーへと向かった。
・そして六日目の昼過ぎ、そろそろレイカーが近くなろうかと言うころ、ラミィは遠くの山裾から一筋の煙が立ち昇っているのに気づいた。
「ねえティム、あの煙は何かしら」
「さあ、狼煙か何かっすかねぇ。それにしては黒すぎる様な……」
・その時、前方から吹いて来た一陣の風が奇妙な臭いを運んで来た。
「こ、この臭い……」
「樹が燃える臭いっす。まさか、レイカーの村が!?」
・二人は嫌な予感に駆られて街道を走り抜けた。そして村に辿り着いた彼らが見た光景は、余りに酷い現実だった。
(三)
・村を焦がした炎は既に収まっていた。幾つかの家々は焼け落ち、林もその半分を失っていた。特に裏山へと続く辺りの消失は酷く、周囲には何も見当たらなかった。本来そこに在るべき物さえも。
「一体……、一体何があったんすか!?・そうだ親父。ラミィさん、俺ちょっと家の方を見て来るっす。ラミィさんは村長の方を」
「分かったわ」
・言葉もそこそこに、ティムは駆け出してしまう。ラミィも辺りを見渡しながら、村の奥へと進んだ。そして数分後、彼女は真っ黒に炭化した地面を前に立ち尽くしていた。その辺りは最も被害が大きかった。最早そこに何かの建物が存在した痕跡すら、見ることは出来なかった。言葉を失って呆然とするラミィに、背後からティムが声をかけた。
「村長なら何とか無事でしたっす。今は教会いるっす。あそこと宿屋だけはあんまり被害に遭わなかったらしく、殆どの村人はそこに避難してるっす」
・それを聞くと、ラミィの肩からすっと力が抜けた。
「良かった。でも一体あたし達がいない間に、何が起こったって言うの?」
「それなんすけど、今聞いて来た話では昨日の明け方に突然魔物が襲って来たらしいっす。村はあっと言う間に火に包まれて、特に村長の家を執拗に狙ってたそうっす。村長の家にはたまたま治療のために神父様が泊まってたそうで、何とか命だけは取り留めたって感じみたいっす」
・ティムは深いため息をついた。
「あなたの家はどうだったの?」
「店は半焼っすけど、親父もお袋も元気だった。それだけで十分っすよ」
「とにかく、村長さんのとこへ行きましょう」
・二人が教会に着くと、そこには焼け出された人が数名避難して来ていた。教会は神の加護により、そして宿屋は村長宅から最も離れていた為に大きな被害を免れた様であった。その事からも、火の手は主に村長宅から広がったと考えられる。だが、それで村長を責める者は誰一人いなかった。むしろ一番深刻な状況にある村長を心配する声の方が大きかった。そして当の村長は、教会の二階でベッドに横になっていた。
「村長、ただいまっす」
「ああ」
・村長はラミィ達の姿を見ると、ゆっくりとベッドの上に上体を起こした。
「余り無理はしないで下さいよ」
「分かとるよ。それより石版は見つかったのか?」
・ラミィは荷物の中から手に入れた石版を取り出し、村長に手渡した。
「ふむ、確かにあの石版に繋がるかけらじゃ」
・村長はベッドの傍らから例の石版を取ると、受け取ったかけらに合わせてみた。その割れ目は何の抵抗も無く繋がる。
「村長、それ持って来てたんすか?」
「ああ、これだけは手放す訳にはいかんからのぉ。恐らく魔物の狙いはこの石版にあったんじゃないかと、儂は睨んどるんじゃよ。村の者にはとんだ迷惑をかけてしもうたの。じゃがこれではっきりした。奴ら魔の者達は、ラミィがメダルを集めることを恐れ始めておる。じゃからその手助けとなる儂を襲ったのじゃろう。ラミィよ、この石版を持ってサンドローグに行くのじゃ。あそこへ行けば、よりはっきりした事も分かるはず」
「ええ、あたしもそのつもりでした」
・ラミィはミールベリーで聞いた事を告げた。
「成る程、残りの石版は既にあっちに渡っておったと言う訳か。それなら話は早い、恐らくサンドローグでも石版の解読が進められておるじゃろう。それだけにあそこも心配じゃが」
「でも村長、サンドローグは今関所の通過チェックが厳しくなってるそうっすよ」
「ふむ、やはり何か起こっておるのか。まあよい、そんな事もあろうかと思ってこれも持ち出しておったのじゃ」
・そう言うとマニトは小さな巻物を差し出した。
「これは?」
「サンドローグへの通行証じゃ。それを関所で見せて儂の名前を言えば、多分通してもらえるじゃろう。それとこれも持って行くといい。このノートには今までの儂の研究結果が記されておる。何かの役に立つじゃろうて」
「色々ありがとうございます」
「礼には及ばんよ。ただ儂に出来るだけの事をしておるだけじゃ。それが儂に課せられた使命なのじゃろうからのぉ。そしてラミィよ、お主はお主に課せられた使命を全うするのじゃ」
・その言葉に、ラミィは力強くうなずいて見せた。
「それともう一つ。儂が研究しておった魔法を授けよう。その名もマホキテ、キテキテダケから抽出したエキスと儂の魔力を練り合わせたこの薬を飲めば、その体は特殊な体質を備えることが出来る。呪文を唱えた者はその体に紫色の切りを帯び、敵から受けた魔法を全て吸収してしまうのじゃ」
「そいつは凄い魔法っすね」
「じゃがのぉ、最後の仕上げが終わる前に魔物に襲われてな。実は魔力を吸収すると言う効果しか得られんかったのじゃ。じゃから魔法のダメージは普通に受けてしまう。まあ何も無いよりはましじゃろう、餞別代りに受け取ってくれ」
「ええ、喜んで」
・ラミィはマニトから壜に入った液体を受け取った。そしてそれを飲み干すと、一瞬ラミィの体が紫色に光り、頭の中には呪文が浮かんで来た。
「霧よ、我を包みて敵の力を奪い取れ。マホキテ!」
・その言葉に反応し、ラミィの体を紫色の霧が包み込む。そしてそれは、ラミィの意思によってすぐに消えてしまった。
「うむ、成功じゃ」
「じゃあラミィさん、ここでお別れっす。俺は村の再建を手伝わないといけないし、村長の面倒も見ないといけないっすから」
「おいおい、儂はまだ寝たきりになった訳じゃないぞ」
「ふふ、それだけ元気なら心配なさそうね。ティム、頑張ってね」
・教会で一夜を過ごしたラミィは、翌朝ティムに見送られてレイカーの村を後にした。
・そしてその十日後、ラミィはサンドローグへの関所の前に来ていた。
「ここ、通してもらえるかしら」
「申し訳ありませんが、ただ今サンドローグ女王イルフェリア様の命により、旅人の通過を禁じております」
「サンドローグで、何かあったの?」
「それはお答え出来ません。とにかく領内は危険ですので、即刻お戻りになられるがよろしかろう」
「無駄だぜ。俺も何度も足を運んでるんだけどな」
・そう背後から声をかけたのは、しばらく前に別れたガルクであった。
「あなた、こんな所で何してるの?」
「俺もちょいとサンドローグに用があってな。だけど領内で何か問題が発生してるらしくて、よそ者は入れてもらえないって訳さ」
「そう……。まあ、あたしに任せて」
そう言うとラミィは、マニトからもらった通行証を取り出した。
「そ、それは王宮関係者のみが持つ通行証。一体どこでそれを?」
「レイカーのマニトって村長さんからもらったのよ。これで通してもらえるかしら」
「前神官長のお知り合いでしたか。これは失礼致しました、どうぞお通り下さい。ただ、くれぐれもお気をつけ下さい。現在サンドローグではただならぬ事態が発生しておりまして、どうか我が女王のお力になって下さい」
門番は頭を下げ、そして門を開いた。
「俺も、一緒に入っていいんだよな」
「あなたもマニト翁のお知り合いですか?」
「いや、俺はその爺さんは知らんが、このお嬢さんとは知合いだ。って事は間接的にその前神官長とやらと、お知合いって事にはならないか?」
ガルクは無茶苦茶な理論を並べ立てる。それが可笑しかったらしく、ラミィは思わず吹き出してしまった。
「ガルクって変わってるわね。ねえ、彼はあたしの旅仲間なの。入国を許可してもらえるかしら」
「はぁ、貴女がそう仰るのでしたら」
「ありがとう。でもガルク、そうと決まったらあなたもサンドローグの力にならないとね。大丈夫?」
しかしガルクは胸を張って答える。
「馬鹿にするなよ。こう見えても俺はガルナシアの竜騎士だ。その辺の傭兵と一緒にしてもらっちゃ困るな」
「あなた、竜騎士なの? でもガルナシアは確か……」
「ああ、滅んだよ。十三年前にな。だから俺は、誇り高きガルナシアの最後の竜騎士って訳さ。尤も相棒は十三年前に失っちまったけどな……」
ガルクはうつむくと、しばし口を閉ざす。
「でも、それならあたしの旅の連れとしても心強いわ。改めてよろしく」
「ああ、こっちこそ。それはそうと、ラミィはどうして旅をしてるんだ? いや、まずは俺から話すべきか」
二人は関所を越えると、サンドローグへと通じる山道を登りながら互いの事を語り合った。
「俺の旅の目的は、祖国ガルナシアを滅ぼした魔族を倒しながら、竜騎士団を復興させる事なんだ。まあ今は、それ以外にも目的があるんだが、そっちは雲を掴むような話しなんでね。とにかく俺は、竜にばかり頼ってる竜騎士のあり方を見つめ直し、魔道の力をも身につけようと思ったんだ。だけど我流では行き詰まっちまってな」
「それでサンドローグに?」
「そういう事だ。今度はラミィの番だぜ」
ラミィはこれまでの事を語って聞かせた。
「と言う訳で、サンドローグに行けばこのメダルの事がもっと分かるかも知れないの」
そう言ってメダルをガルクに見せると、その表情が一瞬険しい物になった。
「ラミィ、良かったら君の姓を聞かせてくれないか?」
「姓? ファミリーネームの事? だったらグレイクだけど、それがどうかしたの?」
「……いや、それよりもうじき暗くなる。今日はこの辺で休むことにしよう。話の続きは食事が済んでからゆっくりした方がいい」
そしてガルクは林の中へ入って行くと、薪を幾つか拾って来て火を起こす準備を始めた。ラミィも釈然としない物を感じながらも、それを手伝う事にした。