ドラゴンクエスト3
ドラゴンクエスト外伝〜そして、もう一つの伝説へ……〜
第一部・伝説の始まり
著作者:異界探訪
Kira’sQuest徹底攻略広場
ドラゴンクエスト3
第六章 炎と水と砂の国
(一)
ミールベリー北部に連なるヴェレミット山脈、北西大陸の中心に横たわるこの山脈は大陸の北と南を分断している。樹木が存在するのは南北共に麓のみで、中腹以降は岩と砂だけの荒れた土地である。人の通れる道は少なく、きちんと整備されているのはミールベリーとサンドローグを繋ぐ一筋だけで、その入口は関所としてサンドローグが管理している。とは言え大陸北部には王都以外に街が無いため、関所の通行が制限されたことで実質的な被害を被る者はさしていなかった。
ラミィとガルクが体を休めることにしたその場所は、山脈の中腹に差しかかった辺りで丁度森林が途切れる直前であった。そこを過ぎれば峠を越えるまで休憩出来るような場所は無い、旅馴れたガルクの判断は正しかったと言えよう。そして食事も済み落ち着いた頃、ラミィが口を開いた。
「で、あたしの名前がどうかしたの?」
「ああ、君の家族に、兄さんか弟にラミアスって名前の人がいないか?」
「兄弟はいないわ。ラミアスはあたしよ」
その返答に、ガルクは意外そうな顔を見せる。
「ふふ、男みたいな名前でしょ。だから小さい時から、周りのみんなはラミィって呼んでたの。何でもね、あたしのひいお爺さんが有名な刀匠だったとかで、父さんがその名前をもらったの。と言っても男の子が生まれると思ってたらしいんだけどね」
「ああ、それなら俺も知ってるよ。伝説の武器職人、ラミアス=グレイクの名前くらいはな。そして、希代の防具職人アウザー=グレイクの事も」
今度はラミィが驚く番だった。
「父さんを知ってるの?」
「竜騎士でその名を知らない者はいないさ。いや、戦士としての道を志す者なら一度は手にしてみたいと願うのが、グレイクの武具なのさ。……話を戻そう。実は君に渡す物があるんだ」
言ってガルクは荷物の中から古びた小さな袋を取り出した。
「これは十三年前に、アウザー=グレイクから託された物だ」
「父さんが? それは一体……」
ラミィが袋を受け取ろうとしたその時、闇の中で一瞬、袋が強い輝きを示した。そして袋の中からは、鈍色に錆びついた一枚のメダルが出て来たのだった。
「これって……」
「ああ、さっき君に見せてもらった奴に似てるだろう。それでふっと思ったのさ、ひょっとしてアウザーが託した人物は彼の血縁者なんじゃないかってな。尤も、正直男だとばかり思ってたんだが」
ラミィは自分の荷物からもメダルを取り出す。二つ並んだそれらは、微かな共鳴を示している。
「父さんは、何故これをあたしに?」
「……、アウザーの遺言を伝えよう。あれは十三年前、ガルナシアが魔族に滅ぼされた日の事だった」
ガルクはラミィから炎に視線を移すと、静かに語り始めた。
「その日、俺は二年ぶりに祖国の地を踏んだ。俺の前には変わり果てた光景が広がっていたよ。既に魔族たちは去った後で、俺は城や街を生存者を捜して歩き回った。あの美しかった城は半分以上焼け落ち、街には焼け焦げた死体が幾つも転がってた。一体そこでどんな惨劇が起こったのか、俺には想像もつかなかった。
「俺が全てを諦めかけた時だった。街の外れで男の呻き声が聞こえたんだ。俺はすぐさま声のした方へ駆けて行った。そこに、彼は横たわっていた。殆ど虫の息で、目も見えなくなっていた様だった。彼は俺に気づくと最後の力を振り絞ってこう言ったんだ」
『旅の人か? ガルナシアは魔族に滅ぼされてしまった。奴らはやがて全世界を恐怖に陥れるだろう。その事を、他の連合国に伝えて欲しい。それともう一つ、私はガルナシア王からある物を授かった。もし旅の途中でラミアスと言う人物に出会ったなら、それを渡して欲しいのだ。その者にとって、いやこの世界にとって必ず必要になる物だから。本当は私が直接渡してやれれば良いのだが、それももう叶わぬ。
『私の下にそれは埋めてある。どうやら魔族の目的は、それを手に入れる事でもあったらしい。勝手な事ばかり言って申し訳ないと思っている。だが私にはもう何も見えない、何も聞こえない。頼む、旅の人よ。それをラミ……アス……に…………』
「俺は必死に尋ねた。ラミアスって誰だ、どこに住んでいるってな。だけどもう……。そういう訳で俺は魔族を倒す為の力を付けながら、ラミアスを捜す旅に出たのさ。小さい頃に親父から聞かされた事があるんだ。世界が魔の恐怖に晒される時、この世を救う鍵となる物が城に保管されているってな。言ってみればそれは、親父が世界を救う勇者に託した物って事だろ? だったら俺が何としても渡してやらなきゃいけない、そう思ったのさ」
話し終えるとガルクは、ようやく肩の荷が下りたと言った風に深いため息をついた。
「そう、やっぱり父さんは魔族に殺されたのね。今まではっきりした事は判らなかったの」
「辛い話を、しちまったかな」
「ううん、これですっきりしたわ。あたしの旅の決意も固まったしね。それより一つ気になったんだけど、あなたひょっとして……」
その問いの意味するところを察したのだろう、一瞬ガルクは躊躇を見せ、そして重たそうに口を開いた。
「いや、別に隠すつもりは無かったんだ。ただ、敢えて言う必要も無いと思ってな。俺の名はガルク=エル=ガルナシア、お察しの通りガルナシアの次期王位継承者さ。だけど国はもう無くなっちまったし、俺は一度国を捨てた身だ。今となってはこの肩書も何の意味も持たないのさ。
「十五年前、俺は親父や竜騎士団の連中の考えに反発して、一人修行の旅に出たんだ。知ってるかもしれないが、ガルナシアって国は竜騎士の力、ひいては竜の力に頼り切っていた。だけど俺は、それだけじゃ駄目だと考えたんだ。北の強国ライナスでは、剣に魔道の技術を合わせた魔法剣技が研究されていると聞く。だから俺は、ガルナシアも魔道の力を採り入れるべきだと思ったんだ。そして当然俺は、勘当されたも同然に国を出た。
「だけど俺にも兄弟がいなくてな、二年経って十六の誕生日が近付いた時に、もう一度親父と話し合うために城に戻ったんだ。果してそれは運命だったのか、俺は重大な使命を授かっちまったって訳だな。……悪かったな、こんな下らない話を聞かせちまって」
ガルクは沈みかけた雰囲気を察した。
「さあ俺が見張りをしてるから、ラミィはもう寝た方がいい。明日は一気に下まで行かなきゃならないからな」
「じゃあ途中で起こして。あなたにも休息は必要でしょ」
ラミィはそう言ったのだが、やはり馴れない山道は極度の疲労をもたらしたのか。彼女が目覚めた時には既に陽が昇り始めていた。
(二)
・山の朝はとても澄んでいる。ラミィはその冷たい空気を一杯に吸い込むと、ゆっくりと吐き出した。そしてガルクの姿が見えない事に気づき辺りを見回す。
「こんな時間からどこに行ったのかしら。それにしても、途中で起こしてって言ったのに」
・ラミィはぶつぶつ言いながら、昨夜ガルクから受け取ったメダルを取り出して見る。
「父さん……」
「その模様、何なんだろうな」
・手に革袋を持って戻ってきたガルクが背後から声をかける。
「あ、ガルク。どこに行ってたの?」
「近くに川を見付けたんでな、水を汲みに行ってたのさ。それより、見たところ魔術の儀式に使う六芒星に似てるな。何かの紋章か……?」
「多分、太陽の紋章じゃないかしら」
・ラミィはマニトから聞いた話を思い出す。太陽神ラー、恐らくそのシンボルなのであろう。
「成る程なぁ。つまりその四人の神様の力を邪魔してる奴がいるって事か」
「そこまでは、まだはっきりしないんだけどね」
・荷物をまとめ出発した二人は、しばし岩だらけの山道を歩き続けた。こうした地形は魔物にとっても好ましい物ではないのか、道中大した敵は現れなかった。いたとしても先を歩くガルクが一瞬で倒してしまう。そうする内に再び、視界に緑が戻ってきた。麓を見晴るかすと右手に深い森林が広がり、左手には正反対に一面砂だらけと言った風景である。山道はやがて左に大きく曲がり、そのまま砂漠へ真っすぐ向かう街道へと繋がった。
・森を背に進んで行くと次第に気温が上昇し始める。ガルクが水を確保していたのも、この気候を知っての事だった。ラミィは改めて旅馴れた仲間を心強く思った。
「ねえ、サンドローグまで後どのくらいなの?」
「そうさなぁ、このまま順調に行けば二日もあれば着くだろう。何も、なければな」
・言ってガルクは槍を取り、その気配にラミィも気づく。立ち上る陽炎の向こうに現れ出でたのは、高温のガス状モンスターであるヒートギズモが二匹と、灼熱に焼けた砂を身にまとう熱砂魔人であった。
「ここはあたしが!」
・ラミィはずいと前に出ると呪文を唱える。
「炎よ、敵を包みて……」
「よせ、それは……」
「メラミ!」
・ラミィの掌から放たれた炎の塊は真っすぐ熱砂魔人に向かい、そして弾け散った。
「迂闊だった、こいつらには俺の火炎突きも効かねえ。風よ、我が敵を薙ぎ払え。バギ!」
・ガルクは槍を真横に構え、それを回転させながら一陣の風を巻き起こした。だがそれも、熱砂魔人の身体の一部を僅かに崩すに留まる。
「ちぃっ、どうしたもんかな。ヒートギズモはともかく、あっちは防御が固いし」
・そうこうする内に、ヒートギズモの片方が炎の息を吐き出してくる。ガルクはラミィの盾となり身構えるが、そこへ飛び来る氷のつぶて。
「こ、これは?」
・ラミィは一瞬その方向に目をやるが、ガルクは魔物たちの注意が逸れたその隙を逃さなかった。
「疾風ぅ、突きいぃぃっ」
・高速で繰り出されたその槍は、瞬く間に二匹のヒートギズモを吹き散らす。それと共に周囲の気温が下がり始める。
「冷気よ、巨大な氷塊となり敵を撃て。ヒャド!」
・その声は、熱砂魔人の体から放出される揺らぎの向こうから聞こえてきた。そして氷塊に貫かれた体はその刹那形を失い、魔力で力を増したガルクの一撃により戦闘は終了した。
「その様な戦力でこの砂漠を越えようなどと、全く無謀な旅人だな」
「ありがとう、お蔭で助かったわ。あなたは?」
・舞い上がる砂塵の向こうから姿を現したのは、法衣に身を包んだ若き女性であった。
「人に名を尋ねる時はまず己から、そう習わなかったのかな?」
「こいつは失礼、魔術士のお嬢さん。俺はガルク、そっちはラミィだ。それよりさっきのヒャド、普通の大きさじゃ無かった様だが?」
・女性はすぐには答えず、じっとラミィの顔を見つめる。そしてふっと表情を緩めると、その声は先程とは変わって柔和な調子になった。
「私はサンドローグ宮廷魔術士のライヒ。女王イルフェリア様の勅命により、貴方がたをお迎えに上がりました。それとガルク殿と申されたか、私は氷の術を極めし者。私の放つヒャドは通常の三倍の力を持っているのです」
「三倍……、そいつは凄いな。サンドローグの魔術士はヒャド系に長けると聞いてはいたが」
「ええ。我が女王のお力は、私などを遥かに凌駕するものであります。ですが今、そんな女王ですら魔の者に動きを封じられてしまっているのです」
・ライヒは踵を返すと、足早に街道を歩み始める。
「あ、ちょっと……」
「とにかく急いで王都へ。詳しい話はそれからです」
・二日後、三人は王宮の謁見の間より更に奥にある小さな部屋で、女王イルフェリアに相見えた。そこはぼんやりと翠色に光る石で築かれた、神聖なる雰囲気に満ちた祈りの場であった。イルフェリアはその中央で、女神像に向かって一心に祈りを捧げている。
「女王は今この国を守るために、こうして殆ど休みも取らずに祈り続けておられるのです。王都の外壁の内側より、気候が変わった事に気づかれただろう」
「ええ。街に入った途端にすごく涼しくなったわ。これも女王様の力のお蔭なの?」
「そうです」
・祈りを終えて、イルフェリアはラミィに向き直る。
「ラミィ、ですね。ルビス様よりの神託を受けていますよ」
「では、全てご存じなのですか?」
・女王は優しくうなずく。
「そいつは話が早くて助かるぜ。だったら早速この国で起きている問題とやらを、聞かせてもらおうか」
「ガルク殿!・女王に向かって何という口の聞き方を……」
・だがイルフェリアは、ガルクに詰め寄るライヒを制して言った。
「構いません。お下がりなさい、ライヒ」
「しかし……。解りました」
・ライヒは言葉を飲み込み、元の場所へ戻る。
「ガルク、大きくなりましたね」
「!・俺の事を?」
「一度お会いしただけですけどね。貴方はまだ幼子でしたから、覚えていないのも無理はありません。何でも南の翼竜を再び空に舞わせるために旅をしているとか」
・女王の声は優しさの中にも威厳を秘めている。
「ははっ、こいつは参ったな。……無礼の段、平に御容赦を。国を失ったとは言え、わたくしはガルナシア国王子としての誇りを忘れた事は一日としてありませんでした」
・ガルクはイルフェリアの前にひざまづく。
「へえ、そうしてると本当に王子様みたいよ」
「うるせえな、俺は本当に王子様なんだよ。それより女王陛下、改めてお話をお聞かせ願えますか?」
・イルフェリアはうなずき、ライヒに合図をする。それを受けて、彼女は傍らの壁に一枚の地図を掛けた。そこには王都を含む砂漠全域の様子が描かれていた。ライヒは地図を示しながら説明を始める。
「ここが王都、そしてこの西の端にあるオアシスが問題の場所なのです。このオアシスからは聖なる川が流れ、このサンドローグを潤していたのですが……。半年前よりオアシスの近くに強大な力を持つ魔族が棲み着いてからという物、川の水が殆ど干上がってしまったのです」
「どうして、王都をオアシスの側に作らなかったの?」
「それはこの場所が聖なる力に守られた聖域だから。人間が容易に足を踏み入れて良い場所ではないのです。川の流れは王都の中を一周し、そしてまたオアシスへと戻って行きます。水は喉の渇きを癒すばかりでなく、その間にこの国の気温を下げてもくれていたのです。それが止まってしまった為に、女王はその力で気候を保たねばならなくなってしまったと言う訳なのですが。このままではいずれ女王の力は尽き、この国も魔族に滅ぼされてしまうでしょう」
・言ってライヒは女王を見る。イルフェリアは力強い笑みを見せると、ラミィとガルクに言う。
「ラミィ、ガルク、貴方がたには不思議な力を感じます。お願いです、どうかこの国の民の為にその力を貸して下さい」
・女王は二人の前に、その頭を深く垂れる。
「そ、そんな。どうか顔をお上げ下さい、女王様。あたし達は元よりそのつもりです。ね、ガルク」
「ああ、そうだとも。陛下、ガルナシア竜騎士の名に恥じぬよう、見事その魔族を退治してご覧にいれましょう」
「その言葉、大変嬉しく思います。しかし相手は相当の手練れ、このライヒも共に行かせましょう。そしてラミィ、貴方がたが留守の間に求める情報についても調べさせておきます。石版をお貸しなさい」
・ラミィはその言葉に驚きながらも、マニトから預かったノートと共に二枚の石版を差し出す。
「では女王、行って参ります」
「頼みましたよ」
・ラミィ達は城の兵舎で装備を整えると、川の流れに沿って西のオアシスを目指す事となった。
(三)
・川は王都を巡って再び西へと流れてゆく。ラミィ達は二筋の川に挟まれる格好で砂の道を歩いていた。周囲はまだ薄暗く、ようやく陽が昇り始める時刻である。
「オアシスってのは、どれくらい離れてるんだ?」
「それ程ではありません。我々の足なら半日で着けるでしょう。ですが夜は魔物にとって有利な世界、この様な時間に出発したのも夕刻までには到着したいからです」
・その言葉通り、昼過ぎにはオアシスが目前に迫ってきた。聖なる川の力によって魔物は近寄れないのであろう、そこに至るまでの間その影は全く見られなかった。だがその代わりにジリジリと照りつける日差しが凄まじく、ラミィとガルクは次第に体力を奪われてゆく。オアシスに辿り着いた三人は、そこで一旦休息を取ることにした。
「それにしても暑いな。聖なる川もお手上げって訳だ」
「本来ならもっと過ごし易いはずなのですが、どうやら魔族の力がそれを妨げている様です。特に今はそこへ近付いているのですから」
「オアシスの水も、大分少なくなっているみたいね。かなりの力を持っている魔族、か」
・とその時、すぐ近くで地鳴りの様な音が聞こえた。
「何かしら、行ってみましょう」
・言ってラミィは駆け出してしまう。
「おいおい……。全く、用心って事を知らないのかねぇ、あのお嬢さんは」
「本当に神に選ばれし者なのですか?」
「さあな。俺もまだ、彼女の本当の力を見たことが無いんでね。それより早く後を追わないと、一人で敵陣に突っ込んで行っちまうぜ」
・二人がラミィに追いついた時、目の前では砂が大きく渦を巻いていた。
「流砂か、でかいぞ」
「早く離れないと危険です」
・しかし言う側から渦は大きさを増し、三人の足元はみるみる内に崩れ出す。そして逃げ出す暇もあらばこそ、ラミィたちは流砂に飲み込まれてしまった。
「うっ、こ、ここは……」
・ラミィが目を開けると、そこは熱気に満ちた洞窟であった。続けてガルクとライヒも目を覚ます。
「砂漠の地下にこんな場所が……。おのれ魔族め、この様な場所に隠れていたとは」
「とにかくこの熱さだ。長居はできないぜ」
・三人は炎系の魔物を倒しながらも、灼熱の洞窟を奥へと急いだ。そして辿り着いた先は、熔岩に囲まれた岩場であった。そこに、全身炎に包まれた魔族が待ち受けていた。
「貴様が我がサンドローグを苦しめている元凶か!」
「ほほぉ、ここまで来る人間がいたとはな。だがここの熱さは堪えるだろう、果していつまで耐えられるかな?」
・魔族は楽しそうに、その口を歪める。
「答えろ、貴様の目的は何なんだ。何故我らを苦しめる」
「はっはっはっ。何故一思いに滅ぼさぬ、か?・お前たち人間にとって、水とは生きるために必要不可欠な物なのだろう。それを徐々に奪えば、お前たちはジワリジワリと迫り来る死の恐怖に晒される事になる。我らにとって、その苦痛から生まれる感情はこの上も無く美味なる物なのだ」
「ガルクの言った通りね。魔族……、許せない!」
・ラミィは剣を抜き構える。
「我ら魔族に盾突く愚かなる人間共よ、我が名は炎帝ソルギア。その愚かさを我が灼熱の業火の中で悔やむが良い。さあ、今一時だけ相手になってやろう」
・そう言うとソルギアは立上り、ゆっくり一歩を踏み出す。
「ラミィ、こいつに炎の呪文は通用しないぜ」
「それくらい解ってる。ライヒ、呪文で援護をお願い」
・ラミィは剣を下段に構え、ソルギアに向かって走った。
「やれやれ、勇者様は無茶をされる。……冷気よ、我が敵を包み込む嵐となれ。ヒャダルコ!」
・魔力によって生み出された吹雪が、ソルギア目がけて放たれる。その怯んだ隙を突いて一撃を食らわせる、ラミィはそのつもりだった。が、ソルギアはその吹雪を事もなげに振り払うと、ラミィに向かって火の玉を吐きかけた。完全に不意を突かれたラミィはその攻撃をまともに受け、ガルク達のいる辺りまで吹き飛ばされる。
「ば、馬鹿な……。私のヒャダルコを受けて平気なのか……?」
「くそっ、ならばこれはどうだ。ライヒ、さっき言った奴を頼む」
・今度はガルクが突っ込む。その後ろから、再びライヒがヒャダルコの呪文を唱える。
「何度やっても同じ……何!?」
・しかしその呪文はソルギアではなく、ガルクに向けて放たれた。輝く冷気をまとったその槍は、真っすぐソルギア目がけて振り下ろされる。
「があぁぁっ……。くぅ、おのれぇ」
「へっ、どうやら少しは効いたみたいだな」
「人間の分際で調子に乗るなよ。業火よ!・ベギラゴン!!」
・ソルギアが放った閃光がガルクを捉える。その炎は後ろにいたラミィ達をも巻き込み、三人は壁に叩きつけられた。
「なんて力なの……。大丈夫?・ガルク。今治癒の呪文を……。聖なる息吹よ、この傷つきし者に癒しの光を。ベホイミ!」
・その力の輝きは、ガルクの体から苦痛を取り除く。次いで彼女は、自分とライヒにも呪文を唱える。
「ふっ、無駄な事を。僅かに死期が伸びたに過ぎんと言うのが解らんのか?・いいだろう、ならばもう一度その身に受けるが良い。わが地獄の炎をな!・ベギラゴン!!」
「今度はっ」
・その瞬間、ラミィは二人の前に立ちはだかった。
「霧よ、我を包みて敵の力を奪い取れ。マホキテ!」
「何だ?」
・その力ある言葉に呼応して、ラミィの周りに紫色した霧が発生する。だが不完全な呪文では、そのダメージまでは防げない。
「きゃあぁぁっ」
「ラミィ!・全く無茶しやがる」
・言ってガルクは彼女に治癒呪文をかける。
「へ、平気よこれくらい。それより、これで奴の魔力が少し吸収できたわ。これなら……」
・ラミィは続けて呪文を唱え始める。
「冷気よ、我が敵を包み込む嵐となれ」
「その呪文は?」
「ヒャダルコ!」
・吹雪が、ソルギアの周囲に向けて放たれる。その冷気は岩を冷やし、魔族の足を止める。
「成る程、考えたな」
「さすがですね。この短い時間でヒャダルコを使える様になるなんて。これなら……。二人とも、しばらく時を稼いで下さい。まだ一度も使った事は無いのですが、試したい術があります。それなら恐らく奴の動きを完全に封じれるはず。そこを叩いて下さい」
「分かった。ラミィ、行くぜ。汝の力を過信する可からず。その肉体を包むは脆き土くれ。ルカニ!」
・ガルクの呪文は青い光となってソルギアの体を包み込む。だがしかしその効果は現れなかった。
「ふん、我も甘く見られたものよ。そんな呪文が通用するものか」
「ちぃっ。ならばラミィ、あれをやるぜ」
・ラミィはうなずいてガルクの槍に呪文を放つ。
「何度も同じ手を食うか」
・その攻撃を躱すソルギアだが、明らかにその動きが鈍っている。そしてその隙に、ライヒは呪文を唱える。
「凍てつく冷気よ、その激しき飛礫(つぶて)にてこの者を氷結せしめよ。二人とも、離れて!」
・その言葉に、ラミィとガルクは後ろに飛びのく。
「ヒャダイン!!」
・その凄まじい氷の嵐は、下の熔岩ごとソルギアを凍りづける。
「な、何だ……と?・う、動けぬ……」
「成功したっ。今です」
「よし。ルカニは効かなかったが、これならどうかな?・天よ、彼の者にその力を貸し与えよ。その者に相応しき力を。バイキルト!」
・その瞬間、ラミィは全身に力が漲るのを感じた。
「うおぉぉぉっ。滅せよ!・ソルギア!!」
・振り下ろされた剣は、凍り付いたソルギアの体を打ち砕く。
「ぐあぁぁっ!・ま、まさか人間如きに我が敗れるなど……」
・その時、ラミィの懐からメダルが転がり出た。それはまるで意思を持っているかのようにソルギアの前まで転がると、目映いばかりの光を放った。
「そ、それは……。くっ、そういう訳か……。だが、これから先はこうはいかんぞ。覚えておくのだな、所詮お前たちは力弱き人間だと言うことを……」
・その言葉を最後に、ソルギアの体は赫い光となってメダルに吸い込まれる。そして太陽の刻印を持つメダルに、銀色の輝きが戻った。
「な、何だったの?・一体……」
「これが、メダルの秘密って奴か?」
・ラミィはメダルを拾い上げると、ぎゅっと握り締めた。それは、微かに脈動しているかに感じられた。
「とにかく城に戻りましょう。これで聖なる流れも元に戻っているはずです」
・三人が洞窟を出ると、途端に砂が流れ込んでその口を完全に塞いでしまった。ラミィ達はその場を後にし、王都に凱旋した。