ドラゴンクエスト3
ドラゴンクエスト外伝〜そして、もう一つの伝説へ……〜
第一部・伝説の始まり
著作者:異界探訪
Kira’sQuest徹底攻略広場
ドラゴンクエスト3
第七章・精霊の守護する地
(一)
・サンドローグに帰り着いた時には既に夜中であった。にも拘らず、人々は聖なる流れが戻った事を喜びささやかな宴を開いていた。ラミィ達は口々に称賛の言葉を浴びせられ、王宮では労いの食事で持て成された。そして、夜が明けた。
・翌日、そろそろ陽が高くなろうかという頃にラミィ達は目を覚まし、そして謁見の間へと赴いた。
「ラミィ、ガルク、それにライヒ。本当によくやってくれました。昨夜は貴方がたの疲労を考え、話もそこそこに休んでもらったのですが。一体魔族は何故にこの国を襲ったのでしょう」
・ラミィはソルギアの言ったこと、戦いの様子などを語って聞かせた。
「……そう。魔族とは恐ろしい物ですね。ラミィ、どうやら貴女には一刻も早く使命を果してもらわねばならぬ様です。城の北に位置する王立図書館へ行きなさい。そこでは既に石版の解読が終わっているそうですよ。さして褒美を取らせる事も出来ませんが、せめてこの国の知識が役に立ってくれる事を期待しています」
「では、私が案内致しましょう」
・ラミィとガルクは、ライヒに連れられて図書館へと向かった。
・サンドローグは王宮と城下町が一体となった構造をしており、城は街の東に位置していた。聖なる川は街の北側から流れ込み、そのままぐるりと街の中を進んで城へと辿り着く。そこで城を囲む水上庭園の堀に注がれた後、反対側から抜けて再び街の中を巡り南西の端よりオアシスへと戻るのである。普通に考えれば何の動力も無しに水が循環する訳がないが、これも全て聖なる力の成せる技なのであろう。
・図書館は、水上庭園を挟んですぐ向かいに建てられていた。ラミィ達が図書館に入って行くと、初老の男が一人歩み寄って来る。
「どうも、現在サンドローグの神官長を務めておりますユグルです。まずはこれをご覧下さい」
・そう言ってユグルが示した先には、例の石版が完全な形となって置かれていた。
「まずこの石版についてご説明しましょう。これはミールベリー北部の古代遺跡から出て来たとの事ですが、その地下に魔物が封じられていた事から考えて、その旨を記した物であると見て間違い無いでしょう」
「この、メダルとは関係ないって事?」
・ラミィは二枚のメダルを取り出す。
「ほぉ、これはこれは……。ええ、直接的な繋がりは残念ながら。それにしても、こちらだけやけに輝いておりますな」
「ああ、砂漠の魔族を倒したら急に光りだしたんだ」
「何と。その魔族、もしや火の力を操ったりなど致しませんでしたかな?」
「何で判るの?」
・ユグルは石版の一ヵ所、左上の部分を示す。
「ここには太陽神ラーの事が書かれておりまして、燃え盛る猛き炎の力を御さん、とあります。そもそもこの石版は遺跡に魔物を封じてある事を示しているだけでなく、天界に住まう四人の選ばれし神に関して説明した物でもあるのです。よいですかな?」
『真実を映す鏡持ちたる太陽神ラー。その鏡かざして邪悪なる力を封じん』
『雷撃の鉾を持ちたる海洋神ポセイドン。その鉾を持て邪悪なる力を封じん』
『地脈操る剣持ちたる大地神ガイア。その剣振りて邪悪なる力を封じん』
『妖しの笛を持ちたる創造神ルビス。その笛を吹きて邪悪なる力を封じん』
「どうやら神々の力たる精霊力を借りて、魔物を封じ込めていた様ですな。それ以外にも、それぞれの神が炎の力、雷の力、生命の力、聖なる力を司っているとも書かれております。物の本にはそれらの力の均衡によって、世界のバランスが保たれているとも記されておりました。それ故、恐らくその均衡が破られた事によって魔族が復活し、精霊力の結晶とも言えるそのメダルも輝きを失ってしまっていたのでしょう」
「じゃあ、四つのメダルと魔族の関係は?」
「ふむ、マニト殿の覚書にもありますがこれらの事を総合して考えますと、そのメダルは恐らく神の城を支える力と同時に強大なる魔族の力をもその内に封じてあったのでしょう。ところが魔の復活に伴いその力が解放されてしまい、然るべき魔族の元へ戻った。そう考えればメダルが地上界にあったのもうなずける話。つまりより魔界に近い場所である人間界に置くことで、封印の力を強めていた訳ですな。
「ただ気になるのは、一体どうして魔が復活してしまったのかと言うことです。レイアムランドにあるラーミアの神殿の力が弱まってしまったのか、とすると千年の周期で神の力が弱まるという伝承は真実であったのか…………」
・ユグルは天井と床と交互に視線を移動させながら、うろうろと歩き周り始めた。そしてはっと気づくと、再びラミィ達に向き直る。
「おっと、いや失礼。考え出すと止まらない性格でしてな。とにかくメダルを集めてその輝きを取り戻すと言うことは、すなわち世界に均衡を取り戻す事にもなり、結果魔族たちの力を著しく低下させる事にも繋がる訳です。これは想像に過ぎませんが、恐らく天界に存在すると言われる神の城も、今はその力を失っていると思われます。そうでなければ、必ず何らかの形で我々の力になって下さるはずですからな」
・ユグルが話し終えるのと同時に、女王イルフェリアが入ってくる。
「コッドへ行きなさい」
「じょ、女王?・しかしあそこは……」
・ユグルは困った様な顔になる。
「コッドって?」
「はあ、精霊の守護する地と呼ばれておる場所でして、この大陸の北に広がる大森林のどこかに存在すると言われておるのです。がしかし、今までそこへ辿り着いたという話は一つとしてありませんし、詳しい伝承も殆どありませんので。唯一伝わっておる話をお聞かせしましょう。
「そこはその昔エルフ達がひっそりと隠れ住む村だったのですが、ある時女王の娘が人間の男と結ばれる事を願うあまり命を断ってしまったのです。人間とエルフが一緒になるなど、とても許される事ではなかったのですな。エルフの女王は怒って、その男の住んでいた村に呪いをかけ人間との接触の一切を禁じました。
「ところがですな、長い年月の末に現れた勇者の働きで女王も考えを改め、それからは心の清らかな人間とだけは心を通わせる様になったと言うことです。そしてエルフと一部の人間が共存する、コッドの地が生まれた訳です。確かに北の森には、邪まなる心の持ち主が足を踏み入れると生きて出られぬ、などという言い伝えもございますが……。やはり噂の域を出ておりませんでな」
・しかし女王は首を振って言う。
「いいえ、ユグル。ラミィや私は、実際に精霊ルビス様のお声を聞いているのです。なればコッドの地も実在するに違いありません。ラミィ、貴女なら必ずやその場所を見付け、ルビス様のお力を得られる物と信じていますよ。途中まで、ライヒに案内させましょう。よいですね」
「はっ、承知致しております。出発は早い方がよろしいでしょう、いつになさいますか?」
「夜の森は危険です。少しでもその危険を減らすのであれば、明日の早朝というのが一番です。今宵はもう一度この城で休んでお行きなさい」
・ラミィとガルクは喜んでその申し出に従い、そして翌朝三人はサンドローグを後にした。
(二)
・砂漠を抜ける頃には、ラミィはすっかりヒャダルコを使いこなせる様になっていた。既にライヒの力を借りるまでもなく、砂漠の魔物はラミィ一人で十分であった。
「本当に凄いですね。ソルギアとの一戦で見せられたあの力と言い、さすがは勇者様です」
「勇者はよしてよ」
・ラミィは照れ臭そうに笑った。だがガルクは、そんなラミィの戦い方にやや不満を感じていた。
「ラミィ、ずっと気になってたんだが、君はあまり剣が得意じゃないみたいだな。いつも呪文中心の戦い方をしている。呪文に頼るなとは言わないが、もう少し剣も使わないと魔力が幾らあっても足りないぜ。それにその剣だが……」
「この剣がどうかしたの?」
・ラミィは腰に下げていた剣を抜くと顔の前に持ってくる。
「俺も実物を見たことが無いんではっきりしないが、その剣は稲妻の剣じゃないのか?」
「稲妻?・ひいお爺さんの代から伝わってて、父さんが遺してくれた剣だけど……。珍しい物なの?」
「珍しいなんてもんじゃないさ。その刀身は稲妻を呼び、数多の魔物を倒して来たと伝えられている名剣だぜ。思うに、ラミィはその剣を使いこなせてないんじゃないか?・ちょっと貸してみろよ」
・ラミィはガルクに剣を渡す。ガルクはそれを繁々と見つめ、おもむろに手近な樹に向かって振り下ろす。一瞬鋭く空を裂く音がし、軽い地響きを立てて太い枝が地面に落ちた。
「さすがはガルク殿ですね。ですが、やたらと森の樹を斬るのは如何なものかと」
・ライヒはやや顔をしかめる。
「わりぃわりぃ。けどな、確かこの剣にはもっと凄い力が秘められているはずなんだ。ちょっと下がっててくれ」
・言ってガルクは剣を正面に構えたまま、深く呼吸をしながら精神を集中させる。そしてしばしの沈黙が流れ、ガルクは剣を高々と振りかざした。
「剣よ、その秘められし力を解放せよ!」
・すると、言葉と共に振り下ろされた剣の切先から爆炎が迸る。それは真っすぐ先程の樹に向かって行くと、その幹の中程を吹き飛ばして倒してしまった。
「な……、今の爆炎はイオラ?」
「こんな力があったなんて。あたし全然知らなかった」
「ラミィ、君はまだまだ強くなれる素質を秘めている。この剣を使いこなせる様になった時、更なる成長を遂げられるだろう」
・ガルクは剣をラミィに返した。彼女はその刃にしばし見入る。その様子を眺めていたライヒが口を開いた。
「どうやら、これより先はお二人だけで大丈夫の様ですね。そろそろ私は引き返させて頂きましょう」
「もう行っちゃうの?・寂しくなるわね。色々とありがとう、ライヒ」
「女王陛下に宜しく伝えてくれ。今までかなり無理をしてきたみたいだったから、くれぐれも体に気をつけてってな」
・ライヒはうなずく。
「もう少し進むと、本格的に森の中です。森に住む住人たちを敬う気持ちを持ってさえいれば、必ずや精霊の加護を受けられるでしょう。旅の無事を祈っています。それではこれで」
・そう言うと、ライヒは来た道をサンドローグへ向けて戻って行った。
「行っちまったな。さぁて、俺達もぼやぼやしていられないぜ。早いとこ、そのコッドって所を見付けないとな」
・しかし何の手掛かりもないまま広大な森林を歩き回るのは、少々無理があった。時間ばかりが流れ、そして二日が過ぎた頃であった。
「見つからないわね。やっぱり伝説に過ぎないのかしら」
「ラミィ、君があきらめてどうするんだ。もう少し頑張ってみようぜ」
・その時、木々の間から小さな悲鳴が聞こえてくる。
「何?」
「あっちの方だ。こんな森の中に人がいるって事は……、行ってみよう」
・ガルク達が悲鳴の聞こえた方へ走ると、そこには子供が一人倒れていた。そしてその前には、灰色をした巨大な熊グリズリーが今にも襲いかからんとしている。
「大丈夫か?・グリズリーとはまた厄介だな」
「ガルク、あたしが呪文で注意を引くから、その隙に」
・言ってラミィは呪文の詠唱を始める。ガルクも同時にバイキルトで力を増し、そして氷混じりの風がグリズリーに吹き付けられた。
『ぐるぁぁっ』
・グリズリーは寒さに耐性を持っているためさほどの効果は無かったが、一瞬の隙を作るには十分であった。ガルクは宙高く飛び上がり、真っすぐ槍を突き出す。その一撃は見事にグリズリーの眉間を捉えたが、最後の力で反撃に出られガルクも肩に傷を負ってしまった。
「くっ、俺としたことが」
・だが倒れていた少年が起き上がり、その傷に治癒呪文を施す。
「これで大丈夫だよ。ありがとう、助けてくれて」
・その少年は二人の顔を交互に見ながら、にっこりと微笑んだ。
「あなた、こんな森の中で何してたの?」
「薬草を採りに来てたんだけど、つい村から離れ過ぎちゃって」
「村?・こんな森の中にある村ってことは、ひょっとして坊主、コッドの?」
・その言葉に少年は驚いた様な表情を見せる。
「お兄ちゃん、どうしてコッドの事を知ってるの?」
「じゃあ本当に?・あたし達、コッドの村を探して二日も森をさ迷っていたの。村まで連れて行ってくれないかしら」
「お姉ちゃん達、一体誰なの?・まさか……、悪い人?」
・少年の瞳に疑惑の色が浮かぶ。が、それはすぐに消えた。
「ううん、そんな訳無いよね。僕を助けてくれたんだもの、きっと精霊様のオミチビキだよね」
「村は遠いのか?」
「それ程でも無いけど……、ちょっと遠いかな。普段村の近くには魔物なんていないもの。こっちだよ」
・言って少年はどこに目印があるのか、迷う事なく木々の合間を縫って行く。やがてラミィ達の前に、突如として小さな集落が現れた。そこには家が数軒建ち、畑には何かの作物が育てられている。そこで暮らす人の数はおよそ十数人、中には耳のとがったエルフ似の者もいた。少年はそのまま奥まった所にある家へと二人を導き、
「ここが長老の家だよ。じゃあ僕は行くね」
・そう言って走り去ってしまった。ラミィは戸を開けるとそっと中を覗き込んだ。暖炉には炎が揺らぎ、その前で老人が椅子に腰かけていた。老人は立ち上がってこちらに向くと言った。
「ようこそお出で下された、勇者様。ジージョを助けて頂いてありがとうございますじゃ」
「あ、あの……」
「全てはルビス様のお導きですじゃ。勇者様が今日ここへ来られる事も、そして何を求めておられるのかも。全て存じておりますじゃ」
・そして老人は二人に待つように言うと、家の外へ出て行く。しばらくして戻って来た老人は、一人の少女を従えていた。綺麗な亜麻色の髪、澄んだ翡翠色の瞳に透き通るような白い肌、そして一際とがった長い耳。
「勇者様、この子はマリエルですじゃ」
(三)
・コッド、そこはかつてノアニールと呼ばれた村とその西にあったエルフの隠れ里が一つになって、妖精たちと人間の共存する小さな集落を形作った地である。その背後には、精霊神とも呼ばれるルビスの影響があった。コッドの住人たちは、ルビスの事を山の精霊様として長い間崇めてきたのだった。現在ではエルフの姿は殆ど見られなくなってしまったが、中にはその血を受け継ぐ者もおり、特にその力の強い女性は巫女としての特質を持ち精霊と意思を交わす事も可能である。巫女は精霊と交信し、神託として村に精霊の意思を伝えるのが役目である。しかし巫女の血は年々弱まりやがて後の世では形ばかりの存在となり、精霊との交信も年に一度の祭の行事に名残を見せるのみとなるのだが、それはまだ先の話である。
・マリエルもまた若干十歳ながら、当代の巫女として類い稀なる力を有していた。
「と言う訳で、この子がルビス様のお言葉を伝えてくれたのですじゃ」
・マリエルは静かにうなずく」
「それじゃあ、俺も君を通じて精霊様とやらと話が出来るのか?」
「ルビス様は仰せられた。ラミィとガルクがこの地を訪れるとき、再び言葉を届けましょうと」
・マリエルの声の調子は厳かで、歳の割にどこか大人びた印象を受ける。
「さあ、今こそその時。精霊神よ、我が肉体に降臨なされよ!」
・言葉と同時に一瞬辺りに目映いばかりの光が満ち、それはマリエルの体へと収束していった。その体はぼぅっと輝き、瞳は虚ろになり、そして口からはルビスの言葉が紡ぎ出される。
『ラミィ、お久しぶりですね。よくぞここまで辿り着きました。これまでの旅、さぞや苦労した事でしょう。そしてどうやら、力の封印に一つ成功したようですね。正直あなたの成長に驚いています。いずれ私と直接見える日も遠くは無いでしょう、その日を楽しみにしています』
「ルビス様、教えて下さい。このメダルは一体何なんですか?・どうして魔族を倒すと輝くのですか?・メダルを集めてあなたの元へ赴くと言うことは、魔族を倒してメダルに輝きを取り戻せと言うことなのですか?・どうしてあたしにその様な使命をお与えになったのですか?」
・ラミィはこれまで心に溜めてきた疑問を、ここぞとばかりに訴える。
「おいおい、どうして尽くめじゃ精霊様も困っちまうぜ。なあ、精霊様よ。あんた一体、ラミィに何をさせようとしてるんだ?」
『…………』
・しばし沈黙が流れる。
『そうですね、今までは時間も短く大した話も出来ませんでした。ですがこの聖なる地で、マリエルと言う媒体をとおしてなら少々長い話も出来そうです。ラミィ、これまで旅をして来て既にあなたなりに何かを掴んだかもしれません。そもそも事の始まりは今から千年ほど昔に遡ります。勇者と呼ばれた若者が大魔王を倒しこの世に平和をもたらした後、神々は魔の活動を押さえる為に四つの大きな力を魔族から奪い、それに神の城を支えていた四つの精霊力を加えて人間界のバランスを保とうとしました。
『と同時に魔界に対しても封印を施し天界から監視を続けて来たのですが、神の力とて絶対の物ではありません。丁度その力が一時的に弱まった隙を突いて、魔族たちが復活を遂げてしまったのです。しかも彼らは長い年月をただ眠っていた訳では無かったのです。かつての大魔王ゾーマに代わる新たな指導者、その名も大魔王ゼオンがその姿を現し、その強大なる力を持って四つの魔力を取り返されてしまいました。そしてその結果逆に、神の城を支える力も奪われてしまったのです。
『人間界と天界を繋ぐ、竜の女王の城より通じる浮き島の洞窟に対し、人間界と魔界を繋ぐ、ラーミアの神殿より通じる氷の洞窟。彼らはそこを通ってこの世界に現れました。それが今から十三年前、その負の力に影響されてごく普通の生き物や大人しい魔物たちも、凶暴なモンスターに変貌してしまったのです。
『彼らは自分達の力を封じる力を持ったメダルを手に入れようと躍起になっています。メダル自身はその力を殆ど失いましたが、幸いそれを守護していた力は無事で、その為まだ彼らの手には渡っていません。ラミィ、ですからあなたは一刻も早くメダルを集めて、その力を取り戻さねばなりません。既に大魔王の力は神の城にまで及びつつあります。メダルの力を取り戻せないと、人間界も天界も、永遠に魔に支配されてしまうかもしれないのです』
・再びしばしの静寂が室内を包み込む。そして、ラミィは口を開いた。
「それがあたしの使命だって言うんなら、それに従います。でも何故あたしなんですか?・あたしなんて一防具屋の娘に過ぎないし、勇者ならこのガルクの方がよっぽど相応しいわ。それなのに……、どうして?」
『……、卑怯な言い方かも知れませんが、それはこれからの旅の中であなた自身が見付けていくでしょう。今私が教えるのは容易い事ですが、それではあなたに余計な重苦しい運命を持たせてしまうだけ。あなたがそれをきちんと受け止め、そして心の底からそれを向き合える様になった時、運命の方からあなたに語りかけてくる。その時を待つのです。大丈夫、あなたならきっと出来ます。ここまで来られたのですから』
「…………分かりました。もう少しだけ頑張ってみます」
・そう言ったラミィの表情に、最早迷いは微塵も感じられなかった。
「でもよぉ。後二枚のメダルと、その力を奪った残り三匹の魔族は一体どこなんだ?・精霊様のお力でぱぱっと判らないものかねぇ」
『申し訳ありません。そもそも四枚のメダルは然るべき場所に保管されていたはずなのですが、この時代で言うとダーマとガルナシアにあった二枚以外は、行方が判らないのです。そして魔族に関しても、力を奪われた今となってはその波動を感じる事もままなりません。こうして貴方がたとゆっくり話が出来るのも、ソルギアが倒されて魔の波動が僅かに弱まったからに過ぎないのです。せめて私の象徴を持つメダルに力が戻れば……。
『ですが全く手掛かりが無い訳ではありません。彼らとて何もせずじっとしている訳にはいかないでしょう。必ず何らかの動きを見せるはず。人々の話に耳を傾け、災いの種が存在する場所へ赴くのです。そうすればきっと道は開けるでしょう。それとガルク、祖国ガルナシアへ戻ってご覧なさい。そこに大いなる光が見えます。魔の波動を突き抜ける程の力強い光が』
「大いなる、光……か」
・その時、マリエルの体が強く輝き始めた。
『そろそろ時間です。ラミィ、ガルク、私はいつでも貴方がたの事を見守っていますよ。何もしてあげられませんが、せめてこれをお持ちなさい』
・マリエルの輝きが更に強くなり、その光の中から二つのアイテムが姿を現す。オレンジ色に光る宝珠と、紅い輝きを湛えた宝石のはめ込まれたプラチナ様の腕輪。
『宝珠はラミィ、腕輪はガルクがお持ちなさい。必ずや役立つ時がくるはず。この世界の事、頼みましたよ』
・輝きは部屋を満たし、そして消えた。解放されたマリエルはその場に崩折れる。
「あ、大丈夫?」
「何、心配は無用ですじゃ。精霊様をその身に降ろすのは、かなりの疲労を招きますのでな。朝まで眠れば回復しますじゃ」
・そう言うと長老は、マリエルをベッドまで運ぶ。
「さあさ、勇者様たちもお疲れになられたじゃろう。二階に客間がありますので、そちらでお休みになられるとよろしい」
・ラミィ達は案内されるままに二階へと上がり、その日は旅の疲れを癒す事となった。
・翌日。
「さてと、これからの事なんだが」
・長老の用意してくれた朝食の席でガルクが切り出す。
「メダルの在処も敵の居場所もはっきりしない。ただ闇雲に動いても仕方がないだろう。だから、俺は一旦ガルナシアに戻ってみようと思うんだ。しばらく別行動しよう、その方が効率いいぜ」
「そうね、世界はあたしの思ってたよりもずっと広かったわ。一人になるのは心細いけど、それがいいわね、きっと」
・そこへ、長老とマリエルも入って来る。
「勇者様、旅の共にこのマリエルもお連れ下さい」
「え!?」
・その突然の申し出に、ラミィは驚きを隠せなかった。
「こう見えてもマリエルは、エルフの血を深く受け継ぐため魔道には長けております。それに何より、精霊様の加護を最も強く受ける者。けっして旅の邪魔にはなりますまい」
「それは心強いけど……。マリエルはいいの?」
「天よりの啓示は下された。私もまた、選ばれし者の一人であると。うふふ、よろしくね勇者様」
・マリエルの笑みは、やはり神秘的な印象を受ける。どこか不思議な感じのする少女だった。
「じゃあこれで決まりだな。俺はガルナシアへ行く。ラミィはマリエルと一緒にライナスにでも向かってくれ。あそこなら情報も集まるだろう。そうと決まったら俺は早速行くぜ。頑張れよ、勇者様」
「あなたもね、王子様」
・そうしてガルクは一足先に旅立った。残されたラミィに長老が言う。
「昨日の精霊様のお話によると、何でもメダルを集めておられるとか」
「え、ええ。何か知ってるの?」
「はい。実は北に浮かぶ孤島に、メダルを集めるのが趣味と言う変わった王がいると聞いた事があるのですじゃ。以前この村を訪れた旅の者から聞いた話なのではっきりとしない部分もございますが、何かの手助けになるやも知れません。一度足を運ばれてみては如何でしょう」
・ラミィはしばし考え込む。
「……、そうね。とにかく今はどんな手掛かりでも欲しいものね。行ってみるわ、そこへ。マリエル、改めてよろしく。危険な旅になると思うけど……」
「それは元より承知の上。さあ行きましょう勇者様。時間は大切に、ね」
・言ってマリエルは微笑む。ラミィは今一つ彼女の調子に慣れなかったが、新たな仲間の存在を嬉しく思っていた。そして長老に別れを告げ、一路北を目指すのであった。